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日文研の話題

第349回 日文研フォーラムを開催しました(2024年1月9日)

2024.01.24

 19日にハートピア京都で開催された日文研フォーラムでは、楠綾子教授 (日文研)による司会のもと、総計79名の聴衆が「『日本民法の父』と近代中国の法学教育――近代日中法律文化の交流」と題した魏敏外国人研究員 (華東政法大学副研究員)の織りなす緻密かつユーモラスな語りに耳を傾けました。法制史を専門領域とする魏研究員は、「日本民法の父」としてその名を知られる梅謙次郎(うめ けんじろう)を話題の主役に据え話を展開しました。

 梅謙次郎は明治民法三博士の一人であり、法典論争の代表者や新民法典の起草者としても知られる人物です。並行して彼は、法政大学の初代総理として中国人留学生を対象に「法政速成科」を開設するなど、近代中国の法律教育とも深い関係を持ちました。発表中、魏研究員は「法政速成科」の成立経緯や、その後の中国における法律教育に梅謙次郎がどのような影響を与えたのかを紹介し、彼が近代日中の法律文化交流史において果たした功績に焦点を当てました。その上で魏研究員は、梅謙二郎の足跡をはじめとして、東アジアのなかの「日本」、そして世界史のなかの「日本」といった、画一的ではなく広い視点を持つことによって、中国法律近代化過程における日中両国の人びとの本質が浮かび上がってくることに言及し、話を締めくくりました。

 発表を受け、コメンテーターを務めた国制史、比較法史を専門領域とする瀧井一博教授 (日文研)は、梅謙次郎を「日本の法整備支援の父」と位置づけ、梅のまた別の側面や歩みについても紹介しました。法制度整備支援とは現在、開発途上国や市場経済への移行を進める国などに対して、それらの国々が進める法制度の整備を支援することとされています。瀧井教授は、梅謙次郎が手がけた韓国における法整備支援を解説した上で、その前提背景にあった近代日本における法整備の構築過程にも言及。西洋から受容した知識をもとに、それらを咀嚼し日本独自の法律を作ろうと奮闘した同時代の人々の歩みに着目し、その足跡が梅謙次郎らが取り組んだ東アジアに通じる法の伝播・継受の形をつくり上げ、さらにその潮流が現在の日本が推進する他国への法制度整備支援の精神にも通じていることを論じました。

 法律をめぐる日中の関係、そしてそれらの学問体系がどのように確立し受け継がれていくかという示唆に富んだ話題を受け、質疑応答の時間にはフロアから梅謙次郎の人物像や彼が活躍した時代背景、さらには現代の民法などについて多くの質問が寄せられ、活発な議論が展開されるなか盛会裏のうちに終演を迎えました。

(報告:総合情報発信室)




< ご関心おありの方は下記の研究者ページ(日文研)もご覧ください >

■ 魏敏外国人研究員
https://www.nichibun.ac.jp/ja/research/staff/s2302/

■ 瀧井一博教授
https://www.nichibun.ac.jp/ja/research/staff/s025/

■ 楠綾子教授
https://www.nichibun.ac.jp/ja/research/staff/s061/

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