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日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]第281回日文研木曜セミナー「日文研上廣国際日本学研究部門開設記念セミナー 国際日本研究のすそ野を広げる」(2024年11月21日)

2025.01.30

 2024年11月21日(木)、「日文研上廣国際日本学研究部門開設記念セミナー 国際日本研究の裾野を広げる」と題し、第281回日文研木曜セミナーを開催しました。このたび上廣倫理財団からのご寄附により、日文研に寄附研究部門として上廣国際日本学研究部門が発足しました。この部門を通じて、日文研では海外の日本研究のニーズを探求し、シーズを撒いていく活動をより推進していくことを企図しています。そこで、部門発足を記念して、部門長の瀧井一博教授(日文研)、副部門長の片岡真伊准教授(日文研)、新任の周雨霏特任准教授(日文研)、ザヘラ・モハッラミプール特任助教(日文研)を加えた4名の部門スタッフで、この部門が目指すことや抱負を語り合いました。

 挨拶では、井上所長(日文研)がセミナーの直前に訪問されていたエジプトにおける国際日本研究の拡がり、特に若い学生に日本への関心が高まっていることについて言及され、国際日本研究の裾野はいまや世界中に広がりつつある、そのニーズに従った、国際日本研究を志す若い学生たちの受け皿となり得るような、日文研の在り方を探っていく必要があると述べました。

 続いて来賓として登壇された上廣倫理財団の丸山登理事が、「文化の力は国境を超える。日本の国力を高めるには、豊かな文化こそが大事である。そして今後は日本人が日本語で日本文化を語るだけでなく、多様な言語で日本文化を表現し、世界に向けて発信することも求められることであろう。世界中の人々が日本文化を知り、楽しみ、愛してくれるようになる努力を日文研に期待したい。また、上廣倫理財団としてもその支援に尽力したい」と語られました。

 その後、瀧井教授から上廣国際日本学研究部門の設置の目的と組織図及びメンバーについて紹介があったあと、モハッラミプール特任助教、周特任准教授、片岡准教授、瀧井教授から、どのような形で日本研究と出会い、日本研究を行ってきたのか、本部門設立にあたっての抱負について、それぞれ報告がありました。

 モハッラミプール特任助教は「国際日本研究に向けて――個人的な経験から」と題した報告で、自身と日本との出会いについて、イランのテヘラン大学の公開講座で日本語を勉強し、日本の文化コンテンツを通して日本文学と芸術に触れ、その後同大学の外国語外国文学部、国際交流基金の日本語研修、東京外国語大学、東京大学大学院への留学・進学を経て、日本研究を志すようになったと語りました。また、自身の研究として、「20世紀初頭の日本における「東洋」概念の拡張」について取り上げました。それまで東洋美術とは、日本、中国、インドがそこに該当するとされてきたが、1920年代後半には、サーサーン朝ペルシア由来の文様と織物が日本美術に与えた影響が取り上げられるようになり、西アジアも「東洋」概念に含まれるように拡大したこと、さらに日本の美術研究の成果が西洋の研究者にも影響を与えていたという経緯を紹介し、イランにおける日本への関心の高さや、地域・言語・分野を超えた国際的・学際的な日本研究、戦前から続くペルシア美術の研究と日本研究の相互的な関わりの深化の可能性について論じました。

 周雨霏特任准教授からは、「方法としての国際日本学」という論題で報告がありました。自身と日本研究との出会いについて、もともとドイツ思想史研究を行っていたところ、愛知大学が所蔵しているドイツ系アメリカ人社会科学者K. A. ウィットフォーゲルの蔵書と出会ったことをきっかけに、日本におけるドイツ社会科学史の受容に注目するようになり、大阪大学大学院人間科学研究科に進学し、同大文学研究科、ドイツ日本研究所(DIJ Tokyo)、帝京大学での勤務を経て、日文研の本ポストに着任することになったと述べました。そして、日本の社会科学において「東洋的社会」が当時の知識人たちにどのように語られたのか、社会科学史研究と日本研究の両輪で、東アジアにおける近代社会科学の受容と変容に注目して考えるという自身の研究課題や、過去の勤務先の教育現場における国際日本研究の取り組みについて紹介し、今後の上廣国際日本学研究部門の発展にその経験を活かしていきたいと述べました。

 片岡准教授は、若手研究者間のネットワーク形成として、JF Summer Instituteへの参加、テキサス大学オースティン・ハリー・ランソム・センターのフェローシップの援助を経て、国際的な日本文学研究を志すようになったというこれまでの経験を述べ、大学院生時代からのフェローシップやワークショップへの参加が、自身の日本研究に重要な影響を与えたことについて触れました。また、さまざまな文化的背景を有する学生たちが集うロンドン大学SOASでシニア・ティーチングフェローとして教育に携わるようになった際には、英語圏の論理に基づく文化基盤と、学生たちが有している各言語/国/文化における論理や思考の構造基盤との間にギャップがあることを知るようになり、こうした異なる価値基準を乗り越えて考えていくには、自身の研究テーマでもある行為としての翻訳を原動力として、思考表現スタイルの文化的基盤の相互的な関わりが大事であると考えるに至った。そして、世界各地から日本研究者が集う日文研を、多元的思考に基づいた国際的な日本研究環境の構築の場としていきたいと述べました。

 瀧井教授はJICA(独立行政法人国際協力機構)の要請でパラグアイ、アルゼンチンで講演した経験や、国際学会で日本の立憲制について講演した際に、非欧米圏の学者から大きな関心を寄せられた経験から、海外特に中南米や中東、アフリカといった非欧米圏において、日本への留学希望者は増加しており、日本研究のニーズは大いに高まっているにもかかわらず、研究インフラが不足しているという問題があるということに言及しました。特に将来の日本研究の担い手の育成を図り、国籍、世代を超えた日本研究のネットワークを形成していくべきではないかと述べ、日本を通じた国際的な知識創造のグローバルな循環としての国際日本学を立ち上げ、国際的に開かれた日本に資する日本研究へのシーズを蒔くべきである、日文研をそのような場にしていく必要があると論じました。

 座談会では、今後部門として取り組みたい企画として、ベテランの研究者だけではなく、若手の研究者や大学院生などを交えた、多様な年齢層に開かれたシンポジウムやワークショップを開催することができるのではないか、また、イランをはじめとする諸国での日本文学の流行や、日本研究のニーズの高まりについて、いかにしてこれを発掘することができるのかについて話し合われました。

 その後の懇親会では「日本研究の推進には志がまず大事」などの活発な議論が交わされ、今後の意欲に満ち、充実した秋の夕べとなりました。

(文・西田彰一 プロジェクト研究員)

  • 井上章一所長 井上章一所長
  • 丸山登氏(上廣倫理財団理事) 丸山登氏(上廣倫理財団理事)
  • 瀧井一博教授 瀧井一博教授
  • ザヘラ・モハッラミプール特任助教 ザヘラ・モハッラミプール特任助教
  • 周雨霏特任准教授 周雨霏特任准教授
  • 片岡真伊准教授 片岡真伊准教授
  • 座談会の様子 座談会の様子
  • 会場の様子 会場の様子
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