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日文研の話題

研究会横断型ワークショップ「多極化する世界における「普遍的価値」の解釈―日本とキリスト教を事例に」を開催しました(2023年3月4日-5日)

2023.03.24

 2023年3月4日、5日の二日間にわたって、研究会横断型ワークショップ「多極化する世界における「普遍的価値」の解釈―日本とキリスト教を事例に」が開催されました。日本とキリスト教の交渉過程を、現代の多極化する世界と東アジアを視野に入れて、通史的に捉え直そうという試みです。なお本企画は、日文研のフレデリック・クレインス副所長、伊東貴之教授が主宰する二つの共同研究会(「西洋における日本観の形成と展開」と「比較のなかの「東アジア」の「近世」―新しい世界史の認識と構想のために―」)を横断し、両研究会のご協力のもと実施されました。




■ 3月4日

 初日は三部構成で9人の方の発表がありました。近世の部では、まず狭間芳樹氏(大谷大学真宗総合研究所研究員)から「近世日本におけるイエズス会の宣教と『適応主義』」、次に、小川仁機関研究員(日文研)の「シピオーネ・アマーティ著『日本略記』(手稿)に見るバロック期イタリアの日本像―キリスト教政治神学の観点から―」という発表が、それぞれありました。両者ともキリシタン時代を取り上げますが、一方は日本における宣教師の宣教方法の一つ、日本の事情に合わせるという適応主義について、他方は神学者アマーティが、宣教師等からの日本情報を利用しつつ、イタリアにおいて自らの政治思想を形成したことを明らかにしました。宋琦氏 (江西理工大学専任講師)は、「日中の三教思想とキリスト教」のテーマのもと、中国における儒仏道による三教思想と、神儒仏を中心とする日本の三教思想の比較や、キリスト教との関係を報告しました。

 近代の部①では、山村奨氏(東京音楽大学非常勤講師)が「近代日本の陽明学と西洋」、三野和惠氏(明治学院大学キリスト教研究所協力研究員)は「倫理的使命としての『生くべき義務』とより公正なる社会の構想-日本植民地期台湾のキリスト者周天來(1905–75)に着目して-」の題目で、それぞれ報告をしました。山村氏は、同じ陽明学であっても明治時代の理解はキリスト教の影響を受けたため江戸時代とは異なる点を指摘し、三野氏は、1920年代から30年代の台湾人キリスト者らの間で表明されるようになった、反植民地主義的な言説の一例として屏東出身のキリスト者、周天来を紹介しました。朴銀瑛氏(成均館大学校教員)は、「近代韓国におけるプロテスタント・キリスト教の伝来と受容」について報告し、韓国平安北道を中心とする西北地域で、なぜ近代韓国の中でキリスト教がいち早く拡大したのか歴史や社会背景を説明しました。

 近代の部②においては、渡部和隆氏(NCC宗教研究所研究員)は「内村鑑三におけるキリスト教と日本との交差」で、内村鑑三が、当時の近代化が進む日本において、礫岩のように内部に多様でゴツゴツとした異物を含んだネーションと、泥岩のように粒が均質化されたネーションを対比したことを紹介しました。藤本憲正プロジェクト研究員(日文研)の「魚木忠一の精神史とキリスト教の日本類型―彼の解釈学とその問題点」と題する報告では、1940年前後に「日本的キリスト教」を唱えた魚木の思想を紹介し、その中核にある類型論を彼の精神史の枠組みから捉えなおしました。西田彰一プロジェクト研究員(日文研)の報告「国体論者による「日本的キリスト教」――筧克彦のキリスト教論」は、国体論者である筧克彦のキリスト教観を解説し、キリスト教は「神ながらの道」に順応すべきであるとする、「日本的キリスト教」を筧が唱えたことを報告しました。

 続いて二人のコメンテーターが登壇し、クレインス副所長は、東アジアという範囲で考えるならば、特に日本と中国における布教の実態の差をどのように考えていくべきかが今後問われてよいのではないかと指摘しました。伊東教授は、東アジアにおける儒教とキリスト教の相互関係を検討する重要性を力説しました。




■ 3月5日

 翌日は、初めに四名からのコメントがありました。芦名定道氏(京都大学名誉教授)は、日本的キリスト教の理解は論者によって大きく異なっているので、理解の差異を地道に詰めていく必要があると助言し、さらに本企画のタイトルにある「普遍」に触れて、キリスト教と日本の両者を「帝国化」という視点から把握して、欧州と東アジアの時代と地域のズレを整理することを提案しました。斎藤公太氏(神戸大学講師)は、初日の一人一人の報告について意見の提示と提案をしました。鬼頭葉子氏(同志社大学准教授)は、本企画の理論的アプローチとして、宗教哲学、宣教学、世俗化論、歴史神学の四つの議論が今後検討できると紹介しました。赤江達也氏(関西学院大学教授)は、日本ではキリスト教信者数に比してキリスト教が文化として親しまれていることから「信仰なきキリスト教文化」が根付いているのではないかと指摘しました。以上のコメントを踏まえて、最後に各発表者からの応答と今後に向けた問題関心が述べられました。

 このようにして若手研究者の発表を中心とした活発で充実した二日間が過ぎ去りました。日文研には日本とキリスト教の交渉について研究の蓄積があります。それを引き継いで、今後、本企画も第二回目の開催が期待されます。

(文・プロジェクト研究員 西田彰一、藤本憲正)


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