令和8(2026)年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました(受賞者 張愉佩氏)(2026年7月31日)
7月31日、令和8(2026)年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました。
本奨励賞は、次世代の日本研究者の育成を目的として、2023年に創設されました。受賞者は、日文研と学術交流協定を締結している海外の機関、又は、「国際日本研究」コンソーシアム海外会員機関(正会員)が推薦する博士後期課程の学生から選ばれるものです。(日文研学術奨励賞についてはこちらをご覧ください。)
日文研は受賞者に対して、専任教員などからの研究支援や、日文研図書館・研究施設の利用など、90日を上限とする研究滞在の支援を行います。
報告会では、6月から日文研に滞在中の受賞者張愉佩氏より、滞在期間中における研究成果に関する報告がありました。また、張愉佩氏の発表を受け、日文研専任教員や研究員から、質問やコメントなどが多く寄せられ、活発な議論が交わされました。
また、今回の日文研での研究滞在を終えるにあたり、張愉佩氏からは、以下のとおり研究報告をいただきました。
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「概念・方法・叙述:近代中日における「中国哲学史」の成立」
19世紀は東西の文明が激しく交流した時期です。その中で、伝統的学問は、西洋学術を受容する基盤であると同時に、近代的学術体系によって再編成・再解釈される対象でもありました。現代の学術における重要な研究分野の一つである「中国哲学史」は、19世紀の「発明」であると言えます。しかも、中国学術思想の「哲学史」化は西洋、日本、中国の三者を巻き込んだ国際的な出来事で、その構成は多中心的かつ動態的なものです。これまでの先行研究では、東京大学における「中国哲学」に関する教育制度に注目して、井上哲次郎が東京大学の助教授として担当した「東洋哲学史」の講義についても、一定の分析が行われてきました。本研究では、こうした先行研究の成果を踏まえつつ、特に知識史及び文化交流史の視点から、明治日本における「中国哲学史」叙述の成立過程と、その具体的な内容について考察したいと思います。
西周は「哲学」と「哲学史」の導入者として先駆的な存在であり、お雇い外国人教師のフェノロサはヘーゲルの「哲学史」理念を東京大学で講じ、西洋の「哲学史」パラダイムを体系的に紹介しました。儒学文化圏固有の学術史論も重要な知的資源であり、近代的な「中国哲学史」構想に影響を与えました。また、東大総長であった加藤弘之の影響で、「哲学」の方法で中国の学術思想を再編成する試みは、東大「哲学科」及び「漢学科」において制度的に実現しました。その期待に応えたのが、東大文学部最初の卒業生である井上哲次郎です。井上の「支那哲学総論」は、明治日本の「中国哲学史」の研究方法を大きく方向づけ、翻訳を通じて中国にも伝わりました。だが、哲学館と後の京都大学の関連研究者は、中国の学問の主体性を尊重する意識から、「中国思想史」的な研究を展開してきました。それと東大を起点とする「中国哲学史」研究の間に、いかなる異同があるのかについては、今後の課題にします。
最後に、これまで大変貴重なご指導を賜りました受け入れ教員の伊東貴之先生をはじめ、井上章一所長、劉建輝先生、戦曉梅先生および他の先生方に心より感謝申し上げます。また、国際研究推進係、図書館など、日文研の職員の皆様にも、日々の研究生活を支えていただき、深く御礼申し上げます。日文研での滞在を通じて、本研究に関する様々な資料が収集でき、研究計画もより明晰になりました。説得力のある博論を完成できる自信が持てるようになりました。また、今後とも日文研での経験を活用し、国際的且つ開放的な視野を持って学術研究に励んでいきたいと思います。
(文:張 愉佩 日文研外来研究員(学術奨励賞))