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日文研の話題

令和7(2025)年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました(受賞者ドー・ティ・マイ氏)(2025年6月25日)

2025.07.02

 6月25日、令和7(2025)年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました。

 本奨励賞は、次世代の日本研究者の育成を目的として、2023年に創設されました。受賞者は、日文研と学術交流協定を締結している海外の機関、又は、「国際日本研究」コンソーシアム海外会員機関(正会員)が推薦する博士後期課程の学生から選ばれるものです。(日文研学術奨励賞についてはこちらをご覧ください。)

 日文研は受賞者に対して、専任教員などからの研究支援や、日文研図書館・研究施設の利用など、90日を上限とする研究滞在の支援を行います。

 報告会では、4月から日文研に滞在中の受賞者ドー氏より、滞在期間中における研究成果に関する報告がありました。また、ドー氏の発表を受け、日文研専任教員や研究員から、質問やコメントなどが多く寄せられ、活発な議論が交わされました。

 今回の日文研での研究滞在を終えるにあたり、ドー氏からは、以下のとおり研究報告をいただきました。

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「江戸後期女性漢詩人 梁川紅蘭の研究 ~京都と紅蘭~」

 私は江戸時代女性漢詩人梁川紅蘭について研究しています。紅蘭は江戸時代の三大女性漢詩人として名が知れており、日本漢詩人の二大巨星である梁川星巌の妻でもあります。しかし、紅蘭については、女性詩人としてのその知名度に比して、先行研究が少なく、基礎的な研究も不十分である現状です。

 紅蘭の出身は美濃国(現在の岐阜県)で、生涯に夫星巌と共に多くのところへ旅に出ましたが、人生の半分ぐらい京都に滞在しました。京都での多くの文人との交流や、詩壇への活発な参加を通し、紅蘭の詩と画の才能は開花しました。しかし、紅蘭の人生にとっての京都に滞在した期間の意義について、独自の研究はまだなされていません。紅蘭が江戸時代の漢詩人、芸術家として成功するうえで、社会環境・文学環境に恵まれている京都がいかなる役割を果たしたか位置づける必要があります。

 以上の背景で「紅蘭の生涯における京都の位置」という問題を設定し、紅蘭が女性芸術家として成長していくにあたって、京都はどのような役割を果たしたのか、究明します。また、紅蘭は京都に居した間、自身の漢詩の中で京都をどのように描写したのか考察します。

 この研究の実施には、京都に関わる歴史資料をはじめ、江戸時代の文人に関する研究資料、また紅蘭の詩集は非常に重要です。今回の日文研の滞在で日文研の図書館でこのような資料が十分に入手でき、自分の研究を進める上で重要な役割を果たしました。

 さらに、日文研滞在の際に、日本研究者としてのキャリアを歩んでいる私にとって、多くの機会に恵まれました。

 まず、指導教員のスクリーチ先生に多くのご助言をいただき、視野が大きく広がり、問題を多角度から分析でき、より包括的で深い理解を得られました。次に、戦先生が研究代表をされている共同研究会「近代日本における『文人文化』の変容」に出席でき、専門家の講義を受けることができました。これによって、多くの研究者と交流でき、自分の研究において新しいアイデアが得られ、今後の共同研究の展望が開けました。その他、中丸先生と多くの研究相談を通じて文学研究において自分の見えない視点が発見でき、自分の研究をより深く掘り下げる自信が持てるようになりました。

 今回の日文研の滞在は、研究活動において非常に貴重な期間となりました。博士論文完成への大きな助力となることはもちろん、研究活動に国際的・学際的な共同研究の重要性が理解でき、日文研で得られた経験や学んだことを活かしながら、研究を進めていきたいと思います。

(文:ドー・ティ・マイ 日文研外来研究員(学術奨励賞))

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