デジタル・ヒューマニティーズ(DH)に関する国際シンポジウムを開催しました(2024年7月26日~28日)
7月26日(金)から28日(日)の3日間、デジタル・ヒューマニティーズ(DH)を実践する国内外のさまざまな研究組織による研究会やシンポジウムが国際日本文化研究センター(日文研)で開催されました。参加したのは、国際日本文化研究センター、人間文化研究機構 DH 推進室、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会、および日文研の学術交流協定締結校である韓国・高麗大学校が代表を務める Digital-HUSS コンソーシアムの4つの組織です。
■ 7月26日(金)
7月26日(金)は、各組織による4つの研究会が開催されました。午前中は、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会の136回研究会で、DH に関する最新の研究成果について6件の研究報告があり、各組織の関係者も含めて105名が聴講しました。
また、午前中の後半には Digital-HUSS コンソーシアム主催による講演会が開催され、赤間亮氏(立命館大学教授)による「〈人文学型〉デジタル・ヒューマニティーズの“すゝめ”」と題した DH の歴史的な経緯や代表的な技術に関する講義を韓国から出席した学生等56名が聴講しました。
午後は、Digital-HUSS コンソーシアム主催「日韓次世代デジタル・ヒューマニティーズ(DH)フォーラム」が開催されました。日韓の学生による絵画デジタルアーカイブ、生成 AI、テキストデータなどを使った研究に関する10件の英語による報告に対し、他の組織からの参加者も交えた活発な議論が交わされ109人が参加しました。
続いて、人間文化研究機構 DH 推進室主催による「DH 若手の会」が開催され、25件の研究発表に各組織から92人が参加しました。ポスター形式による合計90分間の議論は、発表者と参加者、また所属組織などの立場の違いを超えて、非常に有益かつ刺激的な場になったと期待されます。「DH 若手の会」の後半では、鄭有珍氏(高麗大学校教授)と吉賀夏子氏(大阪大学准教授)によるキャリアパス紹介がなされました。第一線で活躍する研究者が辿ってきたキャリアパスの話は、学生を含む若手の参加者にとって、今後の進路を設計する上で大いに参考になったと思われます。
■ 7月27日(土)
二日目の7月27日(土)は、日文研講堂を会場として、第42回人間文化研究機構シンポジウム「デジタル・ヒューマニティーズが拓く人文学の未来」を開催しました。日文研のもつ国内外の研究者ネットワークを活かし、学術交流協定校・「国際日本研究」コンソーシアム会員機関・人間文化研究機構からそれぞれ講演者をお招きしました。
基調講演として、金俊淵氏(高麗大学校文科大学教授)から「Consideration of the Direction of Digital Humanities in Literature Research(文学研究から見たデジタルヒューマニティーズの行方)」のお話をいただきました。デジタル技術が人文学にどのような変革をもたらすか、御自身の専門である中国古典研究をもとにお話しくださいました。李白と杜甫の詩を AI に判別させたり、両者の人的ネットワークを視覚化したりするなど興味深い実践を知ることができました。
ついで、永井正勝氏(人間文化研究創発センター・国立民族学博物館特任教授)から「人文学の資料をデジタル世界に乗せて活用する ―人文学からみた DH の魅力―」と題して、古代エジプトの象形文字のデータベース化の試みについて語ってくださいました。ハラルド・クマレ氏(ドイツ日本研究所主任研究員)による「認識的徳の観点から見た日本の科学インフラ ―事例研究で得られた知見―」では、科学史研究の立場から、科学のインフラと知的生産の関係について知見を披瀝してくださいました。参加者は222名でした。
■ 7月28日(日)
最終日の7月28日(日)は、高麗大学校文科大学との共催シンポジウム「人文知と情報知の接合―デジタル・ヒューマニティーズの可能性と課題」を開催し、6本の研究発表がなされました。
デジタル人文学による研究成果を伝統的人文学の枠組みを超えてどう評価していくか(山田奨治教授(日文研)「デジタル人文学のアポリア――人文知と情報知のはざまで」)という根源的な問いかけから、AI によるプログラミングの実演(宋相憲氏(高麗大学校言語学科副教授)「AI による韓国語発話の社会的要因の検出」)、地域住民との協力のもとでの歴史文書のデータベース化事業の紹介(吉賀夏子氏(大阪大学大学院人文学研究科准教授/大阪大学グローバル日本学教育研究拠点(デジタル日本学部門)兼任教員)「江戸期の地域資料をつなぐ周辺情報の収集と共有」)にいたるまで、さまざまな方面からデジタル人文学の可能性と課題が語られました。
また、デジタル技術を実際に研究に応用した報告としては、鄭炳浩氏(高麗大学校日語日文学科教授)「「研究論文のデータベース」から見る韓国における日本文学の研究動向と主題分析」が、韓国の日本文学研究者の問題関心が最近20年間にどのように変容してきたかを分析し、古典的大家の作品分析から大衆文化への関心のシフトなど興味深い変化を指摘しました。松田利彦教授(日文研)「明治期日本における軍医と学歴―『陸軍現役将校及同相当官実役停年名簿』の数量的分析を中心に」は、日清戦争・日露戦争後の軍医の学歴構成を分析しました。鄭恵允氏(高麗大学校西語西文学科助教授)「スペイン語パブリックスピーチの定量的文体分析」は、3人のスペイン大統領の演説テキストを分析し、それぞれの個性を浮かびあがらせました。参加者は81名で、この問題への関心の高さがうかがわれました。
なお、高麗大学校文科大学とは、すでに今年2月にもソウルでデジタル人文学に関するシンポジウム「デジタルヒューマニティーズとデータベースから見る人文学の世界」を開催しており、2度のシンポジウムの報告内容は成果報告書にまとめ、日韓で刊行することになっています。日本語版は、鄭炳浩・松田利彦編『デジタル・ヒューマニティーズが拓く人文学の未来』晃洋書房から2024年度内に刊行予定です。乞うご期待下さい。
※参加者数には登壇者を含む
(文・関野樹 教授、松田利彦 教授)