令和6 (2024) 年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました(受賞者ヤスミン・ルカト氏)(2024年7月18日)
7月18日、令和6(2024)年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました。受賞者ヤスミン・ルカト氏の発表を受け、出席した日文研専任教員や研究員からは質問やコメントなど多く寄せられ、活発な議論が交わされました。
また、今回の日文研での研究滞在を終えるにあたり、ルカト氏からは、以下のとおり研究報告をいただきました。
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「日本人写真家の作品から見た中国東北 ― 戦前から現代までに出会う写真たち」
これまでの研究では、1930年代後半から1940年代の日本の写真を「暗黒時代」と捉え、芸術的な進歩が不可能であり、アマチュア写真クラブや参加型メディアの体制への影響力が停滞したと考えられていました。一方、旧満州の写真についての解釈は異なります。旧満州の写真についての研究は主に『満州グラフ』に見られるような現代的なデザインや、プロの写真家による芸術的価値の高い象徴的な写真に焦点を当てていました。
私の研究は、1930年代および1940年代の雑誌、報道写真、公式写真集が、満州国のイメージだけでなく、戦前および戦中の帝国日本のイメージを形成する上で重要な役割を果たしたことを示しています。これらのメディアは、今日の日本社会においても記憶の政治の参照点として機能する強力な視覚的伝統を作り出しました。同時に、写真は私的な記録とコミュニケーションの手段としても広まりました。国際日本文化研究センターでの私の研究は、満州の表象のカノンを確立するステレオタイプの写真と、そこから逸脱する写真との比較に焦点を当てていました。特に、日本人開拓者や関東軍兵士による写真に注目しました。この研究は、満州占領時代における写真の多様な使用法と社会的な機能をより包括的に理解することを目的としており、満州に住んだ日本人の生活史の研究だけでなく、日本写真史の研究に対しても有益な補完となることを目指しています。
日文研の図書館や、特定の写真および絵葉書のコレクションは、私の研究にとって非常に重要でした。また、学術コミュニティとの交流、戦教授と劉教授の支援、さらに多様な分野にわたり、日本および各国の研究者からいただいた支援も大変助けになりました。多くの助言をいただき、滞在中に行った二回の発表で研究に対するフィードバックを受ける機会があったことに感謝しています。さらに、研究所のスタッフや他の研究員との日々の会話や交流も、私の研究を深める上で非常に有益でした。これらの経験を通じて、新たな視点やアイデアを得ることができ、研究をさらに発展させるための大きなインスピレーションを得ることができました。
国際日本文化研究センターでの滞在は、私の研究活動において非常に貴重な時間となり、多くの学びと成長をもたらしてくれました。今後もこの経験を活かし、さらなる研究を進めていきたいと思います。
(文:ヤスミン・ルカト 日文研外来研究員(学術奨励賞))