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日文研の話題

令和6 (2024) 年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました(受賞者ジュリアン・ノア・タシュ氏)(2024年6月25日)

2024.07.18

 625日、令和6(2024)年度 日文研学術奨励賞報告会を開催しました。受賞者ジュリアン・ノア・タシュ氏の発表を受け、出席した日文研専任教員や研究員からは質問やコメントなど多く寄せられ、活発なやり取りが交わされました。

 また、今回の日文研での研究滞在を終えるにあたり、タシュ氏からは、下記の通り研究報告がありました。

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「帝国日本の足跡―1940年代から70年代までの在日台湾組織と在外台湾人の位置づけについて」

 戦後日本において台湾人は曖昧な立場に陥った。戦争直後の不安定な時期を超え、1947年末までにほとんどの在日台湾人は華僑としての立場を選択した。しかし、中華民国と中華人民共和国のどちらが「中国」を代表しているのかという問題が発生し、台湾人の国際的な立場は冷戦の渦中に巻き込まれた。二・二八事件や中華民国駐日代表団にはびこる腐敗などに、「新華僑」である台湾人は不満を募らせ、大陸の政権を支持するという複雑な状況となった。

 本研究は、華僑団体の新聞雑誌、名簿、並びに政府の文献を使用し、台湾人がどのように「華僑」として新たなアイデンティティを生み出したのかを分析する。華僑団体において、高い教育水準を有した台湾人は指導的な役割を果たした。このようなエリート在日台湾人は、華僑メディアを使って歴史観を再編し、自らの経験と中国の経験との類似性を強調した。さらに、アイデンティティ形成を促すために中華学校などの地元組織をプラットフォームとして利用しようとした。こうした地元組織は、台湾人を進歩的な海外中華系民族のまぎれもない一部として描く戦後の「想像の共同体」の基礎となった。

 しかし、在日台湾人の新たなアイデンティティは、現実の中華人民共和国の「中国性」とは異なっている。華僑活字メディアは「反動的」などといったマルクス主義的な用語をよく使用するが、内容がマルクス主義と一致していないところが散見される。また、労働者や農民に関する情報が少なく、地元の企業報告や為替相場の情報を掲載している。マルクス主義志向と資本主義の現実のギャップは、華僑メディアの大部分を支配していたエリート台湾人の性格を反映している。このように、在日華僑を理解するためには、台湾人がもはや日本人の定義には含まれなかったために、自らを中国人と考えなければならなかったという歴史的状況を理解する必要がある。この意味で、在日華僑はポストコロニアルの視点から検討する必要がある。

 今回の日文研での研究滞在で得られた研究資料を活かし、今後も在日台湾人についての研究に取り組んでいきたい。

文:ジュリアン・ノア・タシュ 日文研外来研究員(学術奨励賞)

  • 報告をするタシュ氏 報告をするタシュ氏
  • 質疑応答の様子 質疑応答の様子
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