閉じる

日文研の話題

[Evening Seminarリポート]「Recent Trends in Okinawan Society: Attitudes toward Immigrants, Nationalism, and Identity」(2024年4月4日)

2024.05.13

 202444日、「Recent Trends in Okinawan Society: Attitudes toward Immigrants, Nationalism, and Identity」と題し、256回日文研イブニングセミナーが開催されました。発表者はハサン・トパチョール外国人研究員(日文研)、コメンテーターは秋山かおり氏(大阪大学助教)、司会は坂知尋プロジェクト研究員(日文研)が務めました。

 近年、外国人移住者の増加に伴い、様々な関連課題が持ち上がっています。沖縄では、2022年の外国人居住者は約21,000人にのぼり、2013年と比べて約10,000人の増加となりました。今回の発表では、このような状況の中、国際化、日本人らしさ、民族的アイデンティティなどに関する今日の沖縄の人々の意識や姿勢についての考察がなされました。

 1995年、2003年、2013年に Leibniz Institute for the Social Sciences が東京で実施した「国への帰属意識についての国際比較調査」アンケートをモデルに、トパチョール氏は2023年6月20日から710日にかけて、沖縄本島の市街地や文化施設、大学等で街頭調査を行いました。回答者の総数は304人、そのうちの全員が日本国籍保持者、約8割が30歳以下の若者で、男女比はほぼ同率でした。

 アンケートには、外国や外国人への意識、日本や居住地域への愛着や誇り、日本人とみなすために重要なことは何か、といったことを問う項目が含まれています。例えば、外国人移住者の増加については、大多数の回答者が「日本の経済に役に立っている」などポジティブな見方をする一方、急激な増加を歓迎する割合は8.6%と少数派であるという結果が示されました。また、日本や居住地域に対する愛着に関する質問では、多くの回答者がそれぞれの居住地区や市町村、沖縄県へ愛着を持っていると回答しましたが、日本に対し愛着を持っていると回答した割合がわずかながら最も高くなりました。

 日本人とみなすために重要なことについてを問う質問では、「日本語が話せること」「日本で生まれたこと」「人生の大部分を日本で暮らしていること」などを挙げる回答者が多く、なかでも「自分自身を日本人だと思っていること」と「日本の国籍を持っていること」が重要だと考える回答者が最多となりました。一方で、「日本人の肉親がいること」や「仏教または神道の信者であること」を重要視する回答者は稀でした。

 そして、民族アイデンティティを問う質問では、74.4%の回答者が自身を「日本人である」とし、「沖縄人/琉球人である」とした回答者は12.8%にとどまりました。興味深いことに、『琉球新報』や『沖縄タイムス』などによって行われる類似の調査では、自身を「沖縄人/琉球人である」とする回答者の割合はもっと高くなるといいます。トパチョール氏は、この乖離について、さらなる検討が必要だと述べました。

 コメンテーターの秋山氏は、沖縄の歴史的変遷を概説し、明治以降多くの人々が沖縄から世界各地へ移住したことや、現在でも沖縄文化を保持するイベントを開催している事例を紹介しました。このような背景から、沖縄の人々は移民に対して寛大であるという見方がありました。しかし、「外国人は日本の文化を受け入れるべき」と考える回答者が多いなど、トパチョール氏の最新の調査結果からうかがえる微妙なずれは興味深いと指摘しました。秋山氏からは、アイデンティティの継承は調査結果にどのように影響するのか、回答者が自身を日本人であると考える一番の理由は何か、回答者の民族的アイデンティティは同化政策と関連するのか等の質問が投げかけられました。

 また、会場からは、多様な背景を持つ多くの離島をどのように扱うのか、回答者たちの沖縄とのつながりにどれくらいの幅があるのか等の質問が寄せられ、活発な議論が展開されました。

(文・坂知尋 プロジェクト研究員)

トップへ戻る