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[木曜セミナー・リポート]第278回日文研木曜セミナー「近代日本の新宗教と国家統治」(2024年2月22日)

2024.04.04

 2024222日(木)、「近代日本の新宗教と国家統治」と題し、278回木曜セミナーを開催しました。発表者は王新生外国人研究員(日文研)、コメンテーターは磯前順一教授(日文研)でした。

 本セミナーで王研究員は、歴史家の立場から海外の歴史に学ぶという姿勢のもと、近代日本の新宗教について、特に国家統治との関連から報告しました。

 まず近代日本における、幕末、明治中期、昭和初期の3回に渡る新宗教ブームについて、そのブームの下地には、社会的動乱や急速な経済発展等の社会の大きな変化があったことを紹介しました。王研究員は、日本がまさに近代化していく中で、その変化の煽りを強く受けた人々、例えば農村地域から都市へ移住したものの、貧困や精神的な居場所の定まらなさに悩んだ人々や、伝統的制度・価値観の変化により思想的な不安を覚えた人々が、新宗教に多く参加したことを指摘しました。

 次に、様々な新宗教の特徴として、多くの教祖がカリスマを備えていたことや、生い立ちに類似性が見られることを報告しました。また教義の面では、その教団独自の神の重要性や、病気の治療によって人々を惹きつけていたものが、時代の変化や政府との関係により変化していったことを報告しました。また新宗教の多くに共通する特徴として、伝統宗教が死後の救済を求めるのに対して、新宗教の多くは、例えば、都市で働く労働者がお盆に故郷にわざわざ帰らずとも先祖を祭る方法を示す、というように、現世での現実的なニーズを満たす教義を持っていたことを指摘しました。

 そのうえで王研究員は、近代日本において人々は、貧困、病気、人間関係を含む紛争、社会や未来への不安といったものへの救済を求めて新宗教へ参加し、このような社会的に不安定な人々が組織化されることで、新宗教は社会安定にも寄与した側面があったと結論付けました。

 コメンテーターの磯前教授は、安丸良夫、村上重良の民衆思想史研究を紹介しつつ、今回の報告も、民衆思想が国家と衝突したときに何が起こるかということがテーマであったと評しました。また、社会的に不安定な人々をめぐって、国家と宗教が競争をしてきたという捉え方、つまりは宗教を国家の統治術として捉えるという本研究の視点は、日本の研究史の中にはなく、この視点そのものが私達への重要な問いかけである、と指摘しました。

 また所内フロアからも、日本の研究者は個別具体的な事例を克明に研究する傾向にあるが、通史的な視座からの雄大な研究であったとのコメントの他、明治期の政府や指導者達の宗教観や、国家神道の位置づけについての質問もあり、活発な議論が行われました。

(文・春藤献一 プロジェクト研究員(第278回日文研木曜セミナー司会))

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