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日文研の話題

[Evening Seminarリポート]「Japanese Contemporary Art in the Lining」(2024年1月18日)

2024.02.26

 2024118日、「Japanese Contemporary Art in the Lining」と題し、255回日文研イブニングセミナーが開催されました。発表者はクレリア・フローランス・ゼルニック外国人研究員(日文研)、コメンテーターは村井則子氏(上智大学教授)、司会はエドワード・ボイル准教授(日文研)が務めました。

 まず導入として久松知子の『日本の美術を埋葬する』が紹介されました。この作品はギョスターヴ・クールベの『オルナンの埋葬』の構成を踏襲し、新旧の画家に加えキュレーターや美術批評家など、現代日本美術に影響を与えた重要人物を描いています。そして、日本美術の系譜、またその継承と展開という問題提起がなされているといいます。発表では、作品中にも描かれる村上隆が提唱し国際的に高い評価を得た日本美術概念のスーパーフラット、そして同じく作品に登場する会田誠が結成に関わりスーパーフラットとは相反する潮流を生み出した芸術家集団ChimPom2022年に Chim↑Pom from Smappa!Group に改名 以下、Chim↑Pom と表記)の活動に焦点があてられました。

 村上のスーパーフラットは、二次元・平面的での表現や、デジタル技術、現代美術と伝統美術の融合などを特徴とし、国際的に高い評価を受けました。対して、会田の後継ともいえる ChimPom の創作活動では、スーパーフラットの特徴と相反する要素が打ち出されています。ゼルニック氏は、具体的な作品を示しながら、デジタル技術に対して動物、融合に対し階層、クリーンさに対し不潔さ、可視物による表現に対し不可視物による表現など、種々の対照的側面を指摘しました。

 また、ChimPom の創作活動は、パブリックスペースとは何かを問うものであるとも述べられました。ChimPom の創作の場は日常空間の中に創出された並行空間です。これらの空間は、ただ二層に分かれるわけでも、はっきりとした境界があるわけでもなく、界隈と称すべき曖昧なものです。そこでは、穴や階段、鏡など空間どうしをつなぐ仕掛けが多用され、空想と現実、場と界隈、表層と深層が仲介されています。スーパーフラットに対峙し複層的な表現をとるこのような姿勢は、ChimPom をはじめ若い世代の芸術家に広く見られるといいます。

 コメンテーターの村井氏は、『Japan in the Heisei Era (1989-2019): Multidisciplinary Perspectives(Routledge, 2022) の表紙の候補として ChimPom の作品が挙がっていたことや、久松の絵画について近日学会発表することなど、自身の研究と発表との重なりについて驚きをもって述べられました。

 質疑応答中には、久松の絵画についての質問が相次ぎ、ゼルニック研究員と村井氏によって即興で行われた図像学的分析は大変興味深いものでした。

(文・坂知尋 プロジェクト研究員)

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