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日文研の話題

第8回 日文研―京都アカデミック ブリッジ「世界が見た日本の古典~魅力再発見~」を開催しました(2024年2月11日)

2024.02.21

 2月11日に京都新聞文化ホールで開催された第8回 日文研―京都アカデミック ブリッジでは、荒木浩教授(日文研)による司会のもと総計208名の聴衆が、海外から京都へ活躍の場を移した3名の古典研究者、李愛淑外国人研究員(日文研/国立韓国放送大学日本学科教授)、オリバー・ホワイト特任助教(日文研)、マリオ・タラモ外国人研究員(日文研)の魅力あふれる対話に耳を傾けました。冒頭、井上章一所長(日文研)の挨拶ののち、荒木教授は「世界の中の古典」そして「古典の中の世界」という「交錯」に着眼し、各発表者に「過去」(日本の古典文学に触れるきっかけ)、「現在」(取り組んでいる研究内容)、「未来」(今後の展開)について問いかけました。

 それを受け、江戸後期の戯作、とりわけ『東海道中膝栗毛』を研究テーマとしてきたタラモ研究員は、日本の古典文学に出会った大学時代を振り返り、江戸時代の文学にはユーモアがあり、黄金時代といわれる平安文学とは違った面白さに惹かれ関心を抱いたと回想。敵討物などの翻訳を通じて作品の細部を検討している現在は、学際的な理論や手法も取り入れつつ研究の幅を拡げ、多面的な古典の魅力に迫っていると語りました。さらに、これまでの研究で見出した形態学を人情本のような他のジャンルにも適用して幅を広げていきたいと今後の展望についても言及しました。

 続くホワイト特任助教は、高校生の頃に三島由紀夫、川端康成など日本の近代文学に触れ、大学二年生のとき古典文学に出会ったといいます。江戸時代の大衆文学に映し出されるユーモアに魅了され、江戸時代の戯作文学との出会いが古典文学研究への導線になったと当時を振り返りました。その後、戯作をそのまま英訳にするだけでは作品本来の面白みが伝わりにくいため、新たな翻訳手法を編み出すべく試行錯誤したこれまでの取り組みを紹介。戯作文学には、これまで考えられてきた古典文学のイメージや分類に収まりきらない魅力があるとも語り、今後はこうしたジャンルの問題にも視野を広げ研究に取り組んでいきたいと意欲的に語りました。

 李外国人研究員は、幼少期にアニメを見たことをきっかけに『竹取物語』へ興味を抱いたことや、光源氏にあこがれて『源氏物語』を読んだ経験に触れ、『源氏物語』がもつ作品としてだけではない「文化遺産としての魅力」、人間のドラマを発見できる「物語としての魅力」、他国との比較という超領域研究への展開が期待できる「女性文学としての魅力」という三つの角度から、『源氏物語』が多層的に織りなす巧みなトピックスを紹介しました。さらに、韓国の人々が日本の古典文学に親しむためには、「分かりやすさ」「読みやすさ」も重要と語り、現在取り組んでいる絵画を取り入れた「融合翻訳」についても言及しました。

 ディスカッションでは、それぞれの国での日本文学の位置づけや人気作品について、また各国の文化や言語にも配慮した翻訳の在り方など、日本文学をめぐる活発な議論が展開されました。荒木教授は「古典とは英語でクラシックス。もとは貴族に閉ざされたものでしたが、今は国境を越えて繋がることができます。私は、今日の登壇者も世界の文学を結びつける古典の同僚だと考えています。」と締めくくり、盛会裏のうちに終演を迎えました。

(報告:総合情報発信室)


<ご関心おありの方は下記のページもご覧ください>

〔著書・翻訳〕
■荒木浩『京都古典文学めぐり:都人の四季と暮らし』(2023)
https://www.nichibun.ac.jp/ja/publications/other_books/2023/#9784000615976

■이애숙옮김『다케토리 이야기』(2023)
https://press.knou.ac.kr/goods/etcBookView.m?condCmdtCode=9788920045462&condLscValue=002
(한국방송통신대학교 출판문화원(韓国放送通信大学出版文化院)のウェブサイトに移動します)

■Mario Talamo. Storie di vendetta di samurai. (2021)
https://www.ibs.it/storie-di-vendette-di-samurai-libro-vari/e/9788865643655
(IBSのウェブサイトに移動します)

■Mario Talamo. Hizakurige: a piedi lungo il Tōkaidō. (2019)
https://hal.science/hal-03285254/
(HALのオープンアクセスに移動します)

〔研究者紹介(日文研)〕
■荒木浩教授
https://www.nichibun.ac.jp/ja/research/staff/s005/

■李愛淑外国人研究員
https://www.nichibun.ac.jp/ja/research/staff/s2301/

■オリバー・ホワイト特任助教
https://www.nichibun.ac.jp/ja/research/staff/s2308/

■マリオ・タラモ外国人研究員
https://www.nichibun.ac.jp/ja/research/staff/s2323/

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