閉じる

日文研の話題

「日本大衆文化」市民講座を開催しました(2024年2月6日)

2024.02.19

 日文研が進めてきた「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」の成果『日文研大衆文化研究叢書』の韓国語版が2024年2月に刊行されました。これを機に、韓国ソウルで市民向けの講演会「「日本大衆文化」市民講座」が開催され、同プロジェクトに関わった3名の教員が講演を行いました。

 荒木浩教授「<古典>世界と大衆文化―夢・フキダシ、文学遺産、Rashomon effect など」は、空也上人を使った宣伝・美術作品を切り口に、古今東西の美術作品や文学作品から、漫画の「フキダシ」の多様な原型をひもといて見せました。さらに、伴大納言の夢の読み解きから羅生門イメージの現代大衆文化への投影へと豊かな研究の成果を語りました。

 劉建輝教授「大衆文化としての絵葉書―近代日本における「中国像」の成立を再検証する」は、日文研の「近代日本美術展絵葉書データベース」を用いて、日本人画家が絵葉書に描いた中国のイメージをあとづけました。明治期は古典的・伝統的中国を表象する風景画が多かったが、大正期は民族衣装をまとった中国女性の絵画に代表される「中国趣味」が現れました。日中戦争期になると従軍画家が描いた軍事郵便絵葉書が大量に出回ったが、戦闘場面よりも自然の風景を描いたものが多かった、と論じました。

 安井眞奈美教授「絵馬に見る人々の願いと暮らし」は、絵馬の歴史をたどった上で、前近代の日本人が絵馬や他の奉納品に、身体のさまざまな部位の病の治癒や子供の安眠などの願いをこめてきたことを明らかにしました。さらに、ハンガリーやブラジル、韓国などの祈願奉納物を紹介することで、大衆文化研究プロジェクトが重視してきた国際的視点を示す講演となりました。

 聴衆も熱心に聞き入り、各講演者には多くの質問がなされました。海外で一般市民を対象とした講演会は、日文研としても初めての画期的な試みであり、日本研究への関心の裾野を広げることができたものと思います。

(文・松田利彦 教授)

トップへ戻る