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日文研の話題

日文研・清華大学主催「日中異界想像の歴史比較研究」国際討論会を開催しました(2023年11月11日~12日)

2023.11.16

 去る1111日(土)、12日(日)、国際日本文化研究センターと北京の清華大学主催による「日中異界想像の歴史比較研究」国際討論会が開催されました。これは、2023年度日中妖怪研究シンポジウムと日文研の研究会横断型ワークショップ(安井共同研究会・大塚共同研究会)を兼ねています。両日、清華大学の会場およびオンラインにて延約300名の大学生、大学院生、研究者が参加しました。

 開催にあたり、まず清華大学人文学院党委書記の馬銀琴教授が、「異界想像の歴史」というテーマを日中の研究者がともに議論し、交流を深めていくことの意義を述べました。

 国際討論会初日第1部「若手研究者の発表」では、4人の研究者がそれぞれの専門分野を活かした発表を行いました。蘇篠・中国人民大学講師は、学生たちがキャンパス内に祀った猫の「ミャオミャオ寺」を、現代の若者のニッチな流行として取り上げ、現代「民俗」の生成から消滅までの過程を詳細に分析しました。宋丹丹・日文研博士研究員は、「泣く石」、「血の出る石」など身体性を有する岩石伝承を分析し、中国との比較研究の展望を示しました。姜姍・北京協和医学院助理研究員は、お灸における妖怪というテーマを、灸を据える人物の浮世絵や医学書、艾(もぐさ)などの漢方薬などの資料から明らかにしました。徐夢周・清華大学院生(博士後期)は、「玉藻前」について日中の資料を広範囲に調べ、比較の視点を明らかにしました。

 いずれもたいへん興味深いテーマで、フロアから多くの質問やコメントが寄せられ、時間を超過して議論をしました。最後に大塚英志・日文研教授が、ネットも含めた「民俗」の消滅と生成の過程を記述することの必要性、また岩石伝承やお灸から「身体性」に注目した視点の重要性を指摘し、若手研究者に研究を続けていくよう激励しました。

 2日目の第2部「日中妖怪研究の最前線」では日本・中国の8人の研究者が発表しました。王青・中国社会科学研究院研究員は、哲学の立場から井上円了の仏教哲学の構築について、時代背景を加味して検討しました。山本忠宏・神戸芸術工科大学准教授は、日文研の大衆文化研究プロジェクトの成果である妖怪絵巻におけるまんが訳を、『稲生物怪録』を取り上げ、その意図と制作過程を詳細に紹介しました。劉宗迪・北京語言大学教授は、中国・六朝時代の小説集『捜神記』をもとに妖怪の表現の特徴を分析し、畢雪飛・浙江財経大学教授は日中の「宝化物」の伝承を取り上げ、その分布や伝播について、数量分析などを用いて明らかにしました。

 午後は、劉暁峰・清華大学教授が「唐伝奇」をもとに、時間・空間・秩序の揺らぎから「境界」が生み出され、そこに妖怪が出現することを論じました。安井眞奈美・日文研教授は、産女と天狗を例に日中における妖怪の表現を分析し、東アジアにおける妖怪の比較研究および怪異・妖怪の人類学に向けての視点を提示しました。

 黄景春・上海大学教授は、中国で翻訳が広く読まれたRichard von Glahnの中国宗教史に関するThe Sinister Way: The Divine and the Demonic in Chinese Religious Culture2004)の批判的検討を行い、この本が中国の神の多様性を見落としている点を鋭く指摘しました。大塚英志・日文研教授は、「世間師」というキーワードから柳田國男のジャーナリズム論を説き、誰がどのように語っていくのか、伝承の語り手に注目することの重要性を指摘しました。

 これらの発表を受けて、予定時間を超えて充実した議論が展開され、日本から参加した安井、大塚教授、山本准教授が総括を述べました。フロアの秦嵐・中国社会科学院外国文学研究所教授は、2日間の討論が成功を収めたこと、その鍵は若手とベテランの研究者の融合、全体を見通した司会、同時通訳のすばらしさ、清華大学学生・院生の皆さんの細やかな準備・運営といった4点にあると発言しました。

 総括にて大塚教授は「この21世紀になぜ人々は妖怪に惹かれるのか」と問題提起をし、劉教授が挨拶して閉会となりました。

 今後、討論会の成果をもとに、日本語・中国語にて成果報告集を刊行する予定です。どうぞご期待ください。

(文責 安井眞奈美)




当日のプログラム


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11月11日(土)

開会の挨拶:馬銀琴(清華大学人文学院党委書記)

趣旨説明:安井眞奈美(日文研教授)

司会:劉暁峰(清華大学歴史系教授)

第1部 若手研究者の発表

司会:山本忠宏(神戸芸術工科大学准教授)

蘇篠(中国人民大学講師)「21世紀の中国社会における妖怪文化」

宋丹丹(日文研博士研究員)「日中の怪異と岩石伝説」

姜姍(北京協和医学院助理研究員・日文研海外共同研究員)「妖怪イメージから見るお灸の民俗」

徐夢周(清華大学博士後期)「『玉藻前』から見る日本文化の多元性」

全体討論

11月12日(日)

2部 日中妖怪研究の最前線

司会:王鑫(北京大学准教授)

王青(中国社会科学研究院研究員)「真怪を論ず井上円了の仏教哲学の構築」

山本忠宏(神戸芸術工科大学准教授)「妖怪絵巻におけるまんが訳―『稲生物怪録』の事例から」

劉宗迪(北京語言大学教授)「早期中国における妖怪の概念」

畢雪飛(浙江財経大学教授)「対抗と「順撫」―中日「宝化物」の同源異流」

司会:王青(中国社会科学研究院研究員)

劉暁峰(清華大学教授)「怪異と堺い―唐伝奇における異次元の境界」

安井眞奈美(日文研教授)「日中における妖怪の表現――産女と天狗を中心に」

黄景春(上海大学教授)「Richard von Glahnの『左道』の研究針路」

大塚英志(日文研教授)「岡田健文―柳田國男と敗戦を予知した民俗学者」

閉会の挨拶 劉暁峰、安井眞奈美

同時通訳:沈丁心・中国社会科学院ポストドクター、丁曼・外交学院准教授

  • 馬銀琴・清華大学人文学院党委書記の挨拶 馬銀琴・清華大学人文学院党委書記の挨拶
  • 若手研究者の発表(姜姍研究員) 若手研究者の発表(姜姍研究員)
  • 山本忠宏准教授の発表 山本忠宏准教授の発表
  • 質疑応答の様子(蘇篠講師) 質疑応答の様子(蘇篠講師)
  • コメントする大塚英志教授 コメントする大塚英志教授
  • 挨拶する劉暁峰教授 挨拶する劉暁峰教授
  • 登壇者と清華大学の皆さん 登壇者と清華大学の皆さん
  • 馬銀琴・清華大学人文学院党委書記と安井教授 馬銀琴・清華大学人文学院党委書記と安井教授
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