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日文研の話題

第348回日文研フォーラムを開催しました(2023年9月19日)

2023.09.26

 日文研フォーラムは、国際日本文化研究センター(日文研)に滞在中の海外の研究者による日本研究の成果を市民のみなさまにご紹介し、交流の一助となることを主な目的とする催しです。1987年の日文研設立以来、京都市中心部の会場で継続的に開催しています。

 9月19日に開催した第348回日文研フォーラムでは、アリレザー・レザーイ外国人研究員(テヘラン大学・准教授)が、「『ルバイヤート』から考える懐疑的な無常観」と題して講演をおこないました。

 『ルバイヤート』は「四行詩集」という意味を持ち、数学・天文学などに通じた学者ウマル・ハイヤーム(1048~1131)が「人生の意義」「無常」「宗教への懐疑」「酒礼賛」などをモチーフに綴った、世界に名高いペルシア語の文学作品です。韻を踏むなどの修辞技法を凝らし、四行という短い詩のなかにハイヤームの無常観や思想が詰め込まれたこの作品の特徴を、レザーイ研究員は「四を詠んで、四十を読ませる」と紹介しました。

 四季に基づいた、非常に精度の高い暦を作成したハイヤームは、「無常」を時間の流れで起きる変化とみなし、「人は死んで土に還るだけでなく、その朽ちた土の粒子から新たなモノが造られる」という考えを「土から生まれる壺」にたとえた詩であらわしました。レザーイ研究員は、壺にまつわる詩のなかの無常観を読み解きながら、日本文学で語られる無常観と比較し、その違いについて指摘しました。

 誰しもがこの世に生まれてきている以上は、何らかの工夫を凝らして楽しく過ごすしかないという、暗示的・刹那的な意味での「酒」を称えながらも、ハイヤームは学者としての理性をもって、「神による人間創造」に懐疑的な視線で問いかけます。彼の詩にこめられたメッセージとは何でしょうか。解答も解説もない、人生の意義を問う問題集『ルバイヤート』に取り組むレザーイ研究員ですが、彼が近年発見したという「ある気づき」には会場でどよめきの声があがりました。

 レザーイ研究員による発表を受け、コメンテーターの荒木浩教授は、『方丈記』の鴨長明より100年以上前に生まれたペルシアのハイヤームが「無常」をモチーフに詩作をしていたのは驚きであり、その「無常」は何によるものかをレザーイ研究員に問いました。仏教を背景とした日本の無常観、鴨長明や吉田兼好の「嘆き」の要素は『ルバイヤート』にもあるのか、それともハイヤームの無常観は教義への「批判」や強い対抗心によるものなのか。これに対して、レザーイ研究員は、理性で考えて辻褄が合わないことに「なぜ」と投げかけ続けるハイヤームのスタンスを語りました。

 古代・中世の日本文学を専門とする荒木浩教授とのディスカッションでは、劉建輝教授の司会進行のもと会場から寄せられた質問への回答を交えつつ、ハイヤームの人物像を追究し、『ルバイヤート』にこめられたメッセージについての議論が深まりました。最後に、レザーイ研究員が会場からのリクエストに応えて『ルバイヤート』の原文をペルシア語で詠み、盛況のうちに本フォーラムは終了いたしました。

 日文研は、引き続き研究・教育活動の情報発信に力を入れていきます。今後のイベントにもご期待ください。次回の日文研フォーラムは2024年1月9日に開催予定です。

  • アリレザー・レザーイ外国人研究員(テヘラン大学・准教授)による講演 アリレザー・レザーイ外国人研究員(テヘラン大学・准教授)による講演
  • 荒木浩 教授とのディスカッション 荒木浩 教授とのディスカッション
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