閉じる

日文研の話題

第163回日文研レクチャー "Nuclear Power and the Arrogance of Man: Revisiting the World's Worst Nuclear Disasters 原子力と人間の傲慢:世界最悪の災害を再訪する" を開催しました(2023年6月15日)

2023.07.28

 6月15日、Serhii PLOKHY 教授(ハーバード大学ウクライナ研究所)を迎えて第163回 日文研レクチャー "Nuclear Power and the Arrogance of Man: Revisiting the World's Worst Nuclear Disasters 原子力と人間の傲慢:世界最悪の災害を再訪する" を開催し、オンラインを含めて31名が参加しました。以下は、当日の司会を務めた、楠綾子教授(日文研)の報告です。


 プロヒー教授からは昨年出版された著作 Atoms and Ashes: A Global History of Nuclear Disasters(W. W. Norton, 2022)を基に約60分の講演をいただいた。第5福竜丸事件(1954年)、ウラル核惨事(1957年)、ウィンズケール原子炉火災事故(1957年)、スリーマイル島原発事故(1979年)、チェルノブイリ原発事故(1986年)、そして福島第一原発事故(2011年)の6つのケースを比較し、類似点と相違点を明らかにする作業から浮かび上がるのは、現場レベル、行政レベル、中央政府レベルそれぞれの目標や利益、行動パターンであり、小さな錯誤(の積み重ね)や惰性が大きな事故を生む過程であり、あるいは人間の制御不能な巨大エネルギーに対する惧れの欠如である。政治文化や政治体制の違いが事故対応にどのような違いをもたらしたかという分析は示唆的であるし、また次の大災害を生み出さないために何が必要なのかという問いは重い。

 プロヒー教授が原子力産業に従事する人びと、あるいはリーダーたちの視点に立って原子力災害の歴史を分析するのに対して、磯前、フロメイチュク、ブラッカー各教授は、福島の経験、ウクライナの現状、文化表象などそれぞれ災害によって直接被害を受ける人びとの視点に立った議論を展開した。フロアとの質疑応答も議論の視野をさらに広げ、原子力災害、さらには原子力エネルギーとの向き合い方について、さまざまな観点が提示される充実したレクチャーとなった。

(文・楠 綾子 教授)

トップへ戻る