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[Evening Seminarリポート]「Metamorphosis of Earth: Contemporary Ceramics in Kyoto and Its Vicinity(土の変形:京都とその周辺の現代陶芸)」(2023年4月6日)

2023.04.20

 2023年4月6日(木)、第252回日文研イブニングセミナー「Metamorphosis of Earth: Contemporary Ceramics in Kyoto and Its Vicinity(土の変形:京都とその周辺の現代陶芸)」を開催しました。今回の発表者は、日文研に外国人研究員として滞在している蓜島アグネセ外国人研究員(ラトビア大学准教授)でした。

 貴族文化の影響を強く受け古くから文化の中心として機能した京都は、新しい文化や技術がもたらされる地でもありました。陶芸も例外ではなく、16世紀ごろから展開した京焼は中国や朝鮮半島、東南アジアなどの陶芸の技術や要素を吸収しながら、京文化の影響のもと、その様式を展開させました。京焼の特徴として、華麗な絵画的装飾や厚く塗られた釉薬などに代表される発達した絵付け技術、また、詩歌や文学、書、絵画など他の芸術作品のテーマを採用し絵付けを行うことが挙げられるといいます。

 京都の陶芸界は野々村仁清や尾形乾山、尾形光琳など歴史的に多くの著名な陶芸家を輩出しましたが、現代では、主に伝統工芸士たちが京焼の伝統を受け継いでいます。発表では、斎藤雲楽、林侑子、森里陶楽、森俊山といった現代陶芸家たちの作品が紹介されました。彼ら彼女らは京焼に新しい技術や京の文化を融合させています。例えば、林侑子は、和菓子作りから着想し、焼き物に鋏で装飾を施す技法を生み出しました。また、森里陶楽は朝鮮半島由来の三島の技術を採用し、刻印で連続模様の装飾を作り出しています。

 これまでは男性中心であった陶芸界ですが、最近ではより多くの女性陶芸家が活躍しています。その一例として、京都色絵陶芸協同組合に所属する様々な世代の女性陶芸家9名の作品を集め、2022年10月に開催された展覧会「京の女匠陶画展」が紹介されました。出展者のうち7名は伝統工芸士または清水焼の陶芸家で、なかには70年を超える経験を持つ方や、多数の受賞歴を有する人物もいます。しかし、その業績についての情報はほとんど公開されていないとのことです。

 発表の後半では、戦後に始まった新しい動向として抽象陶芸が取りあげられました。林康夫は、1948年に抽象陶芸作品を発表して以降、注目されず不遇の時代も経験しました、しかし、現在では日本で初めて実用品ではない純粋な芸術としての陶芸作品を制作した人物としての功績が認められています。また、林の後の抽象陶芸家として深見陶治の作品が紹介されました。彼のシンプルな抽象造形は、特に海外で高い評価を得ているといいます。江戸時代から続く陶工の清水六兵衛(7代目、8代目)もまた、抽象陶芸を手掛けており、日文研に設置されているオブジェを含め様々な作品が紹介されました。

 コメンテーターのメーガン・ジョーンズ准教授(アルフレッド大学)は、陶芸の文化アイデンティティを考えるにあたり、「場所」と「個別性」という要素が重要であると述べました。また、京焼は、地域特有の素材と技術を使い地域を体現する焼き物ではなく、様々な素材や技術、要素を融合させて京文化や日本文化を表現する観念的なものであると指摘しました。その他、茶の湯との関連、落款の意味、作者の声を記録することの重要性などについても議論されました。

 今回の発表では多数の作品画像と共に様々な陶芸家たちが紹介され、京焼の多様性と広がりが視覚的にも伝えられました。また、蓜島研究員が嗜まれている華道をきっかけに著名な陶芸家とコンタクトを取ることができたというエピソードは、京焼は他の芸術分野と密接に関わるという議論と繋がり興味深かったです。

(文・坂知尋 プロジェクト研究員)

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