国際交流基金との共同主催による「日本研究フェロー・カンファレンス」を開催しました(2022年12月10日)
新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響で長らく国内外の学術交流が停滞する中、2022年12月10日(土)に国際交流基金との共同主催、「国際日本研究」コンソーシアムの共催により、日本滞在中の国際交流基金フェローと日本国内研究者とのネットワーク構築を目的とする「日本研究フェロー・カンファレンス」を開催しました。
カンファレンスは二部により構成され、第一部では、分野ごとに、グループA「社会・歴史」(ファシリテーター〈以下同〉:松田利彦副所長、五十嵐惠邦外国人研究員)、グループB「文学・言語」(荒木浩教授、劉建輝教授)、グループC「芸術・文化」(タイモン・スクリーチ教授、松木裕美助教)、グループD「政治・国家」(楠綾子教授、瀧井一博教授)、グループE「信仰・思想」(磯前順一教授、村島健司研究員)に分かれ、それぞれ1〜2名のフェローが研究発表をおこないました。
第二部では、全体セッションとして、「日本研究者のキャリア形成について」をテーマとするラウンドテーブルが開かれました。エドワード・ボイル准教授の司会のもとで、ナサニエル・マイケル・スミス氏(立命館大学国際関係学部准教授)、マリア・ミハエラ・グラジディアン氏(広島大学大学院人間社会科学研究科准教授)、周雨霏氏(帝京大学外国語学部専任講師)という三名のパネリストが、それぞれのフェロー体験を踏まえつつ、日本におけるジョブ・マーケットや、日本学の現状と展望、国際交流基金の役割などについて活発に議論し、会場の参加者とも意見を交わしました。
各グループ・セッションの具体的な内容と成果は以下の通りです。
Aグループ「社会・歴史」
まず、Mina Markovic氏(ケンブリッジ大学)が「国力の測定と比較:近代日本における人口統計」と題した報告をおこないました。戦前期の人口問題に関するディスコースに着目した報告に対して、植民地研究や優生学批判、ジェンダーの視点からの質問がなされました。続くConrad Hirano氏(ノースウェスタン大学)の報告「近代大阪(1880-1995年)の大気汚染公害問題と反対運動」は、戦前期の大阪における煤煙防止研究会、煤煙防止調査会を中心に論じたもので、戦後の水俣病などとの対比、戦前と戦後の公害反対運動の違い、発展途上国に対する教訓などに関する質問がありました。いずれの報告でも、参加者がそれぞれの専門領域を越えて活発な議論をおこないました。
Bグループ「文学・言語」
最初の報告者はJingyi Li氏(アリゾナ大学)で、“Shogakai: Public Exhibitions of the Late Edo Period”と題し、19世紀――近世後期から明治にかけての「書画会」をめぐる文化の諸相とその拡がりを英語で論じました。次の報告者はAdel Amin Saleh氏(カイロ大学)で、「非西欧社会における近代再考:エジプト(アラブ)と日本(東アジア)の場合」をテーマに、近年の研究活動を紹介した後、「比較研究における「国語」モデルの位置づけ」と題した発表をおこないました。Li氏の発表は、日文研が蒐集し、データベース化を進めている文展や院展など、近代の美術博覧会の活動研究とも史料や分析が重なる部分があり、劉教授とも有益な情報交換や対話がなされました。Saleh氏の発表は、「国語」という概念と実態をめぐる歴史的な問題を新たな視点で考察するものでしたが、アラブ圏とアラビア語の問題をめぐり、参加フェローとの間でも興味深い議論が展開されました。
Cグループ「芸術・文化」
最初にNatalia Egorova氏(ウィスコンシン大学マディソン校)が“Art and Advertising: Reading Early Modern Japanese Literature as Promotion”というテーマで、次にMaria Salvador氏(ハーバード大学)が“Hereafter: Eschatology and Nature in the Art of the Kasuga Cult”というテーマでそれぞれ報告をおこないました。報告者の研究テーマを起点とし、芸術・文化と商行為や環境との関係など、幅広いテーマについて参加フェロー全体で活発に議論することができました。また調査の方法やフィールドワークでの発見についても経験談を共有しました。フェロー以外に、受け入れ大学の教員や日文研の教員(井上章一所長、戦暁梅教授)などの参加もありました。
Dグループ「政治・国家」
まずBeata Malgorzata Bochorodycz氏(アダム・ミツキェヴィチ大学)が“The Japan-U.S. Alliance since the Cold War: Alliance Management, Public Diplomacy, and Implications for the U.S.-Centered Alliances”というテーマで、次にHasan Topacoglu氏(ユスキュダル大学)が「メディア・イベントとしての「本土復帰50年」(2022年)とメディア・記憶・アイデンティティ」というテーマで、それぞれ報告をおこないました。沖縄の基地問題やメディアによる「戦後」表象の問題に関する報告で、テーマに関する質疑応答や、研究の方法論についての議論など活発なディスカッションがなされました。
Eグループ「信仰・思想」
Danau Tanu氏(早稲田大学)が“Japan's Multicultural Youth”と題する発表をおこないました。発表では、日本における内なる国際化について、特に若年世代が「Returnee」「Hafu children」「Immigrant children」等と称されることを紹介しながら、「国際的・国際化」という問題をどのように捉えていくのかという問題が提起されました。参加者からは、日本における「ハーフ」表象についてのカルチュラル・スタディーズを中心とした研究蓄積や、「international」と「transnational」の相違に関するコメントが寄せられました。 セッション後半では、各参加者が簡単な自己紹介を通じて自らの研究関心を共有しながら自由に討論をおこないました。なかでも、「ポストコロニアル」や「アーカイブ」についての話題があがり、磯前教授と村島研究員が日文研の研究成果として『ポストコロニアル研究の遺産』(人文書院)や共同研究「日文研所蔵井上哲次郎関係書簡の研究――国民国家の始発と終焉」を紹介しました。
(文・劉建輝 教授)