閉じる

日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]第274回木曜セミナー「縮小する社会での文化創造を考える」(2023年1月26日)

2023.02.16

 「縮小する社会での文化創造を考える」と題する本年度4回目の木曜セミナーは、日文研の山田奨治教授、独立研究者の山下典子先生、そして甲南大学教授の服部正先生の報告を受けて進みました。山田教授は、日文研で共同研究「縮小社会の文化創造:個・ネットワーク・資本・制度の観点から」(2019年度~2022年度)を主宰されており、その成果は、現在編集中の論集と、企画展「縮小社会のエビデンスとメッセージ」(会場:京都国際マンガミュージアム、2022年1月22日~5月16日)の2つにまとめられています。今回は、この共同研究会の班員でもある山下、服部両先生をお迎えしての企画となりました。

 最初に山田教授から、「縮小する社会での文化創造を考える」という報告がありました。少子高齢化の進行により、日本の総人口は現在急速に減りつつあり、2050年には約1億人に減少すると予測されています。その社会状況において、文化創造をどう行うべきであるかについての共同研究が、如上の研究会だったと紹介されました。

 続く山下先生は、アグリツーリズムの現状と課題の紹介を旨とする報告をされました。アグリツーリズムとは、体験重視のツーリズム、特に農家泊・農家民宿泊を伴う農山村への旅行です。密を避け、自然環境に触れられる生活への憧れから、現在アグリツーリズムのニーズが増加しつつあるそうです。しかし、現状はホストとなる農業者の環境整備やアプローチが十分ではないため、今後これらの課題を解決する必要があるとの見解が示されました。

 服部先生の報告は、大阪の障害者施設「西淡路希望の家」での障害者創作活動についてでした。近年、障害者による芸術上価値が高い作品等の創造への支援という「アール・ブリュット型支援」に注目が集まっているものの、これは「「普通」との違いを強調し、評価する」というアール・ブリュット本来の意味を曲解しており、障害者の美術エリートを礼賛するという歪みが生じていると服部先生は指摘します。この対極の事例として、コミュニケーションツールとしてチラシ箱を作り続ける野村知広氏、父が町中で集めたチラシをくるくると切ることで、親子の対話をとる下司雅英氏の取り組みが紹介され、2人の造形物が内包する豊かな物語をこそ見ていくべきであるという意見の開陳がありました。

 右肩上がりの成長を前提とはできない日本社会の現状では、成長に価値を置くことをやめ、可処分時間を増やし、文化創造のための「小さな場所」をいくつも作っていくことを提案する山田教授の発言には、頷かされました。また、山下先生が紹介されたアグリツーリズムや、服部先生が指摘された障害者アートからも、縮小社会におけるそれぞれの現状と課題が明らかになったと思いました。今冬一番の大寒波のなか、それをものともしない、熱気に満ちた報告と、活発な議論がなされました。

(文・西田彰一 プロジェクト研究員(第274回木曜セミナー司会))

トップへ戻る