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シンポジウム「宗教とジェンダーの最前線」を開催しました(2022年12月24日)

2023.01.18

 20221224日(土)、「宗教とジェンダーの最前線」のシンポジウムが、日文研主催・南山宗教文化研究所後援でオンライン開催された。企画者は川橋範子・日文研客員教授と小林奈央子・愛知学院大学教授で、これに賛同した安井眞奈美・日文研教授が運営を担当し、日文研の共同研究のテーマ「文化と権力」の一つとしてシンポジウムが実現した。

 まず、フレデリック・クレインス・国際日本文化研究センター副所長が主催者として挨拶をし、続いてマシュー・マクマレン・南山宗教文化研究所第一種研究所員が後援者として挨拶を述べた。続いて小松加代子・多摩大学教授がシンポジウムの趣旨として、宗教とジェンダーの最前線とは、ジェンダー論の視座から宗教に潜む権力構造を明らかにして、それに代わる新たな宗教的解釈を求めようとするものであること、現在日本では、宗教右派がジェンダーに絡む施策に影響を与えてきたことが明らかになってきたが、家父長制的な性別役割を規範とする宗教団体は、新宗教のみならず、伝統宗教にも見られることを説明した。総合司会を安井眞奈美・国際日本文化研究センター教授が務めた。

 第1部「女性の霊力の脱構築」では、小林奈央子・愛知学院大学教授が、木曽御嶽講の「御座」の巫儀において、中座を担った女性行者たちは、その霊力が期待され持てはやされる一方、特異な力をもつ異質な存在として差別的な扱いを受けることがあり、女性巫者に対する世間からの〈称揚〉と〈排除〉は、研究者による「女性の霊力」の強調やロマン化によって不可視化されてきた面があることを論じた。コメンテータの磯前順一・国際日本文化研究センター教授からは、本発表でも「女性巫者」といった表現により「単一の女性」というカテゴリーが設定されてしまっていること、誰もが差別する側になる可能性があり、「語る」ことのポリティクスについて意識的になる必要性などが指摘された。

 澤井真代・立正大学・日本学術振興会特別研究員は、沖縄の民俗宗教において中核的な役割を果たす女性についての先行研究をふり返り、社会のなかで宗教者としてはたらく女性の霊力を把捉するための方法を探った。とくに村落祭祀を主導する女性神役をめぐっては、神・女性神役・人々の関係や、一女性が宗教者となる共同体の制度などを、多角的な調査から明らかにする必要を述べた。磯前氏からの「見えないもの」を語ることの難しさを指摘するコメントを受け、調査地での経験から、「気配」のように感じられる女性神役の霊力を根拠に基づき言語化する難しさについて応答した。

 続いて第2部「教団とジェンダー平等」では、福島栄寿・大谷大学教授は、真宗大谷派を事例に、近代以降の仏教教団が宣布した女性教化の説教を概観し、教学上の女性蔑視等の大谷派の体質として孕まれたジェンダー意識が、戦後から現代の教団運営やの位置のあり方に、いかに影を落としてきたかを指摘した。特に「真宗大谷派における女性差別を考えるおんなたちの会」と、1996年に宗派に設置された「女性室」による問題提起と改善への取組みを紹介し、大谷派の現状と課題を論じた。コメンテータの井上順孝・國學院大學名誉教授から、大谷派と真宗他宗派並びに他の仏教教団との比較や、宗派や教団を横断するネットワークによる考察が必要、とのコメントが寄せられた。

 猪瀬優理・龍谷大学教授は、近現代の日本社会で一定の信者数を獲得している「新宗教」の多くは、日本社会にある「ジェンダー不平等」を生み出す社会構造を変革する意図は強く持ってこず、むしろその構造を利用して教団運営をしてきたという視点を提示した。事例として、創価学会員を対象に行った調査から教団の運営において家族イメージが信者に受容され、それが組織運営に活用されてきた可能性について検討した。一方で、社会変動に伴い多くの人の意識が変わってきていることから、フェミニズムと深く結びついた宗教が成立する可能性についても示唆した。井上氏から、宗教研究者にとっての大学や研究機関など日常的な場面でジェンダー問題を感じさせる組織における問題と重ね合わせた時にどのように考えられるか等のコメントが寄せられた。

 最後に、川橋が、従来黙殺されることが多かったジェンダーの視点からの宗教批判が、今回の統一教会事件を契機に注目されるようになり、宗教研究の分野でも、ジェンダーやフェミニズムからの批判がある程度まで認知されるようになったと述べた。宗教がジェンダーの形成や維持におよぼす影響力は強大であり、宗教とジェンダーの関係性を批判的に問い直す課題に宗教研究者あるいは宗教者として真摯に向き合う必要性を強調した。今日の登壇者たちが身を置く宗教学の世界では、研究者と教団の間に教団擁護的な雰囲気があるため、教団の性差別に対しても、ジェンダー論からの宗教批判を抑制する傾向が作り出されてきたが、無責任な宗教肯定論ではなく、宗教におけるジェンダー平等や公正をいかに実現させるかに関する説明責任を果たす研究が求められると総括した。

 なお、このシンポジウムの報告を兼ねた拡大版は、女性宗教者のナラティヴも収録した形で、ハワイ大学出版から「南山ライブラリーシリーズ」の一冊として刊行が予定されている。

(文・川橋範子 日文研 客員教授、小松加代子 多摩大学教授



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