閉じる

日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]ポストコロニアル・フェミニスト宗教研究者への道行(2020年11月26日)、差別と博物館 -「負の歴史」をめぐる研究と表象(2021年1月21日)、留学を夢見た近世の僧侶(2021年2月18日)

2021.03.05
 新型コロナウイルス感染症の影響拡大を受け、日文研木曜セミナーは今冬もオンラインで開催して参りました。夕刻とは言え平日の開催であるにもかかわらず、今回ご紹介する3つのセミナーにはいずれも50人近い参加者があり、発表後の白熱した質疑応答の様子からも関心の高さがうかがえました。本リポートでは、今年度後半に行われたセミナー3回分(2020年11月26日、2021年1月21日、2月18日)の様子をまとめてご報告いたします。




ポストコロニアル・フェミニスト宗教研究者への道行(2020年11月26日)

 2020年11月26日の木曜セミナーは、川橋範子氏(日文研客員教授・南山宗教文化研究所客員研究所員)がご登壇。安井眞奈美教授がコメンテーター、磯前順一教授が司会を務めるなか、「ポストコロニアル・フェミニスト宗教研究者への道行」というテーマでお話くださいました。ジェンダー宗教学、ポストコロニアルフェミニズム、そしてフェミニスト人類学をご自身の研究基軸とする川橋氏は、これまでの研究足跡を詳細に振り返りつつ、その背景には、いかに民族誌を書くかという他者表象の解釈学への関心やマージンに立つ者としての視点、さらに地域研究としての日本研究の窮状があると分析しました。それを受けたその後のコメントや質疑応答では、格差や暴力などの構造を的確に指摘し、自身の経験から分かりやすく解説した発表内容に共感の声が寄せられるほか、今後、日本研究をどのように国際的に広げていくかという課題も議論の俎上にあがりました。さらに、日本女性の特異な立場性をどのように解決していったら良いのか、またフェミニズムが均質で単一ではない、つまり西洋のフェミニズムだけがあるわけでなく、日本では日本のフェミニズムがあり、そこから問題を発見し、なおかつ発言していくということの重要性についても話題が及びました。




差別と博物館 -「負の歴史」をめぐる研究と表象(2021年1月21日)

 2021年1月21日には、講師に吉村智博氏(大阪市立大学都市研究プラザ 特別研究員)を迎え、「差別と博物館―「負の歴史」をめぐる研究と表象―」というテーマでお話をうかがいました。コメンテーターは磯田道史准教授、司会は磯前順一教授が担当しました。戦争、犯罪、差別、暴力、貧困、感染予防、疾病、精神障害、隔離の問題といった博物館が展示表象する「負の歴史」は、それぞれの問題の固有性をもちつつ、現在も日本社会に深く刻み込まれるものです。吉村氏は、そうした諸問題について、ご自身が展示や運営にかかわっている「大阪人権博物館(リバティ大阪)」など、博物館を通して考えることの意義や実態について詳細に論じました。質疑応答の時間には、吉村氏が発表中に投げかけた公共性と歴史的記録、記憶の問題として負の歴史をどう考えるかという問いに対して、吉村氏とコメンテーターとの議論にとどまらず参加者を含め白熱した議論が交わされたほか、国内外の人権博物館の動向についての質問も寄せられました。





留学を夢見た近世の僧侶(2021年2月18日)

 今年度の締めくくりとなる2月18日には、「留学を夢見た近世の僧侶」というテーマで榎本渉准教授が登壇。司会は大塚英志教授が担当しました。中世国際交流史、とりわけ9世紀から14世紀の日本と海外との交流について、主に貿易商人と渡航僧に着目して研究を進めている榎本准教授。今回の発表では、宋元代の様相や明代の海禁と留学の終焉を解説した「前史としての中世仏教」、そして「留学の夢」という2つの軸をもとに話がすすめられました。後半の「留学の夢」では、明清仏教と日本との関係性が紹介された後、留学を夢見て1596年から1611年に相次いで入明を試みるも失敗に終わった宗蕣・袋中・恭畏・明忍という4人の僧侶にスポットが当てられました。彼らが留学を目指した背景や航路などを詳述した上で榎本准教授は、当時の寺院社会でおこった聖教の集成や刊行といった教学再興の動きが、豊臣・徳川政権という統一権力の成立や仏教界の復興・安定といった新秩序の中でおこったことに言及。そうした背景が、同時代における中国仏教導入の志向や舶載典籍の獲得や入明の動きに繋がったと論じました。さらに、この中世期の動向が近世仏教の新展開や17世紀後半から18世紀前半におこった黄檗ブームにも繋がった可能性に触れ、発表は締めくくられました。発表後の質疑応答では、4人の僧侶が入明を目指すに至る時代や地域的な特徴、同時代の貿易や外交環境との関連性、さらには入明に失敗したこと自体の史的意義など多岐に及ぶ議論が交わされました。
 

(文:総合情報発信室特任助教 光平有希)


  • ポストコロニアル・フェミニスト宗教研究者への道行(2020年11月26日)ポストコロニアル・フェミニスト宗教研究者への道行(2020年11月26日)
  • 差別と博物館 -「負の歴史」をめぐる研究と表象(2021年1月21日)差別と博物館 -「負の歴史」をめぐる研究と表象(2021年1月21日)
  • 留学を夢見た近世の僧侶(2021年2月18日)留学を夢見た近世の僧侶(2021年2月18日)
トップへ戻る