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日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]絵を描かないまんが制作——「まんが訳」の挑戦(2020年9月17日)

2020.10.13
 9月17日、前客員准教授の山本忠宏氏(神戸芸術工科大学助教)を講師に迎え、「絵巻まんが訳から考える間メディア的方法論」と題する木曜セミナーをオンライン同時開催しました。

 山本氏は、この5月に、大塚英志教授(監修)とともに編著『まんが訳 酒呑童子絵巻』(ちくま新書)を刊行したばかりです。当日は、本書に掲載された最新成果を基に、まんが訳の意義から実際の工程までを豊富な事例によって解説してくれました。

 まんが訳の底本とされた絵巻は、『酒呑童子絵巻(上・中・下)』『道成寺縁起(上・中・下)』『土蜘蛛草子(上・下)』の3つで、いずれも江戸期の写本とされる日文研所蔵の史料です。日文研データベースで公開されているこれら絵巻の高精細画像を活用して、「まんがのシステムに変換する」=「まんが訳」の作業は行われました。

 当日、重要な前提として強調されたのは、「まんがやアニメーションの起源が中世の絵巻物にある」というのが根拠のない俗説に過ぎないということ。そして、まんが訳は、そのような俗説に対し、変換先のまんがの形式と様式、方法論を、むしろ逆説的に立ち上がらせる試みだったということです。

 特に、まんがにおける「紙面構成の原理」については興味深く聴きました。読みやすさや注意喚起のためのモデルとされるコマ割りの原理を、まんがから映像へという別のメディア間の変換例と対比させることで、明快に伝えてくれました。

 また、絵巻中の詞書の多寡によって、まんがの「運動」を想像力によって補ったり、絵に内在する時間や性質を読み解いてコマ割りを調整したりといった、作業工程の苦心談も印象的でした。

 山本氏が大学のゼミ生らと一緒に取り組んだという今回のまんが訳。実は、まんがの表現法を正しく身につけているからこそできる難しい試みといいます。大塚教授は、「教育のプロセスでもあり、特異な人文学的方法論でもある。それが同時に最先端研究にもなっている」と評価しました。


(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
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