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日文研の話題

[Evening Seminarリポート]近代都市の形成と、植民地化のリアリティー(2020年2月6日)

2020.02.20
 2月6日、国立釜山教育大学校社会教育科(韓国)の全鎭晟(CHUN Jin-Sung)教授をゲスト講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。
 
 近代ドイツの知識人と歴史理論について研究する全教授は、近年では東西の都市文化史に関心の幅を広げています。昨年6月には著作Sang Sang ui Athene, Berlin Tokyo Seoul (2015) の日本語版『虚像のアテネ―ベルリン、東京、ソウルの記憶と空間』(法政大学出版局)を出版し、英語版もまもなくRoutledge から刊行される予定とのこと。“Imaginary Athens in Berlin, Tokyo and Seoul: Memory and Architecture from a Transmodern Viewpoint”(ベルリン・東京・ソウルにおける虚像のアテネ――超近代の視点からみる記憶と建築)をテーマとしたこのたびのセミナーでは、主要な論点が紹介されました。
 
 中心となったのは、ベルリン、東京、ソウルという、一見色合いの異なる三つの首都の連関です。一つの都市で支配的だった文化的伝統が意図的に、あるいは植民地化によって異文化環境に移し替えられ、やがて「記憶」として変質していく――。その過程について、18世紀のプロイセン出身の建築家、カルル・フリードリッヒ・シンケルに代表される、ギリシア建築に倣ったモダニズム様式「新古典主義」の影響を各都市の建築物にたどることで検証していきました。ドイツ国家の基調を成す文化遺産が帝国日本の建築物に取り入れられ、その独日融合の文化が、今度は植民地時代のソウルの都市計画に影響を与えていく。先住者の土地に踏み込み近代都市をつくり上げるという行為は、同時に、かつてそこにあった過去の歴史との間に大きな裂け目を生み出す。近代化の陰に隠された植民地の現実をもあらためて突きつける、スケールの大きな議論を展開しました。
 
 そのきわめて独創的なアプローチに対し、発表後には、井上章一教授が建築史の視点から、松田利彦教授が日本統治期朝鮮の専門家の観点から、また瀧井一博教授が文化史研究の方法論という面から、それぞれ率直なアンチテーゼや、別の見方を提言し、活発な応酬が繰り広げられました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
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