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日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]国際“的”な言語交流研究はかくも刺激“的”だった(2020年1月23日)

2020.02.10
 1月23日の木曜セミナーでは、中国語学を専門とする稲垣智恵・機関研究員が、「対外接触による近現代中国語の変遷」と題して、最新の研究成果を紹介しました。
 
 19世紀末から20世紀初頭に起こった中国語の変化について、言語接触の観点から明らかにしようとする研究内容で、なかでもあまり語られることのない文法的な変化の一つとして「欧化文法」を取り上げました。「欧化文法」とは字義通り、西洋の言語の影響を受けた中国語表現を指すとのこと。それを西洋語、とくに英語と中国語の関係だけでなく、魯迅、周作人、梁啓超、陳独秀など、日本に留学していた知識人による日本語を媒介とした間接的な欧化文法、いわゆる「新興語法」を含めた、西洋・日本・中国の三者の言語交流に目を向けた点に、稲垣研究員の独創性があります。
 
 当日は、「新興語法」が最も現れやすい小説等の翻訳を事例に、主に、日本語の接尾辞「的」と中国語の助詞“的”との比較が話題になりました。近年では口語で使用範囲が拡大している日本語の「的」は、元をたどれば中国の助詞“的”に由来するのだとか。明治以前から中国の白話小説を真似た俗語として使用されていたそうですが、興味深いことに、明治以降に使用されるようになった接尾辞「的」は、たとえば、Systematicの ”-tic” を訳す際に、中国語の助詞“的”と音が似ているという理由で採用されたといいます。System→「組織」、Systematic→「組織的」という訳語の背景に、そんな逸話があったとは・・・。この「的」の用法は明治20年代に流行して濫用されたあと、大正期以降は現在とほぼ変わらない形に定着し、普及したそうです。まさに言葉は、時代とともに変異する生き物なり。発表スライドでは、いま、日本の若者の間で流行している“ニセ中国語”のイラスト付きスタンプも紹介され、注目を集めました。
 
 発表後には、劉建輝副所長、稲賀繁美教授、アリステア・スウェール外国人研究員らが、期せずして中国・日本・西洋の立場から本研究の面白さを語り、今後の発展に向けたさまざまな課題の提案が尽きることなく続きました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
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