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[日文研フォーラム・リポート]『日本山海名産図絵』(1799)を通して見る近世後期大坂の物産文化(2021年10月12日開催)

2021.10.20
 緊急事態宣言解除後、久々に開催された本企画に来場した総計49名の聴衆は、「『日本山海名産図絵』(1799)を通して見る近世後期大坂の物産文化」と題した堀内アニック外国人研究員(パリ大学教授)の織りなす緻密かつユーモラスな語りに耳を傾けました。

 近世思想史・科学史を専門領域とする堀内研究員は、1799年に大坂で出版され、その後19世紀を通じて版を重ね続けたロングセラー『日本山海名産図会』に焦点を当て、同書に描かれている図版資料をふんだんに織り交ぜながら、その内容や史料としての特徴について詳しく解説しました。

 『日本山海名産図会』は、作者は不明であるものの、図版は大坂画壇有数の画師として名を馳せた蔀関月(しとみかんげつ)が、そして序文は大坂の著名な文人木村蒹葭堂(きむらけんかどう)が手掛けています。18世紀を通じて人々の生活に浸透した本草学の知識が多く盛り込まれているほか、約70枚の図版に日本各地の生産現場(狩猟、漁業、窯業など)が活写されている本書は、当時の様子を窺い知ることの出来る貴重な歴史的資料として位置づけられています。堀内研究員は、同書の内容解説を主軸に据えながらも、ことばでは言い尽くせない部分が図版によって表象され、そしてその図版の伝える知識がメディアとして重要な役割を果たしていったことに言及。また、当時の物産文化が都市部から地方へ、あるいは物産を巡る知見が知識人から庶民へと拡がっていったこと、さらに、『日本山海名産図絵』に描写された生産者・生活者の営みやそれに付随する文化が、近世から近代、さらには現代の日本において途切れることなく継承されている点など、幅広い文脈から同書の魅力や重要性を説きました。

 堀内研究員による報告を受け、コメンテーターとして登壇した日文研のフレデリック・クレインス教授は、『日本山海名産図絵』を含め同時代の図絵に共通して認められる構成や描写の手法、また、同時代の海外史料との比較も議論の俎上にあげ、さらに広い展望から図絵研究の意義を説きました。終盤、フロアを交えたディスカッションでは、『日本山海名産図絵』の読者層や政治的な影響関係、そして同書がどのようにして西洋に広く受け入れられていったのかなど、いつも以上に多くの質問が寄せられました。質疑応答のあいだ、発表者・聴き手・コメンテーターによる三方向のコミュニケーションを介して、さらに幅広い研究深化の糸口が紡ぎだされていく、そのような瞬間が幾度となく垣間見られた充実したひと時でした。

(司会・総合情報発信室 特任助教〔人文知コミュニケーター〕 光平有希)


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