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日文研の話題

[人コミュ通信vol.16]アニメーション動画「カルレッティのだいぼうけん」、制作背景やみどころをご紹介!

2021.04.23
 国際日本文化研究センター(日文研)の人文知コミュニケーター、光平有希です。日文研や教員の活動、そして所蔵資料の魅力を定期的にお届けしている「人コミュ通信」。16回目となる今回は、2021年4月16日に新規公開されたアニメーション動画「カルレッティのだいぼうけん」にスポットを当て、アニメ化の背景や視聴時に注目していただきたいポイントなど、作品の裏側についてご紹介していきます。


◆ アニメーション動画の題材となった原作『世界周遊記』

 「カルレッティのだいぼうけん」は、フランチェスコ・カルレッティが著わした『世界周遊記』をもとに制作したアニメーション動画です。カルレッティは16世紀末から17世紀にかけて実在した人物であり、イタリアの冒険商人として活躍しました。冒険商人とは、世界を渡り歩き様々な国で商品を売り買いし、生計をたてていた人々のことです。カルレッティは、1594年から1602年まで、8年もの歳月をかけてスペインから西周りの航路で世界一周を果たし、帰国後、自身が見聞した様々なエピソードを1冊の『世界周遊記』にまとめています。『世界周遊記』は1609年ごろに書き上げられ、写本のひとつが1701年にフィレンツェにて出版。日文研が収蔵するのは、このフィレンツェ版です。

 カルレッティの『世界周遊記』は、航海した順に第1部「西インド編」(ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ大陸)と第2部「東インド編」(アジア、インド、アフリカ、ヨーロッパ)に分かれています。旅の途中に立ち寄った長崎でも、目にした様々なエピソードを多数記録しており、それら日本に関する記述は第2部第1章に詳細に綴られています。


◆ 「カルレッティのだいぼうけん」制作の背景

 日文研では、海外・外国語で書かれ出版された日本についての書籍を「外書」と呼び、30年以上にわたって重点的に収集してきました。特に、開国期以前に西洋人によって日本について著わされた図書や地図は、「日本関係欧文貴重書」として日文研創設準備期より継続的・網羅的に集められており、日本に関わる情報が豊富でない時代に、西洋の人びとはどのように日本を捉え、いかに表象していたのかという多面的な角度から研究が進められています。

 1701年に出版されたカルレッティの『世界周遊記』も、日文研の「外書」そして「日本関係欧文貴重書」に該当しています。同書には、大航海時代を逞しく生きた当時の西洋人自らの手によって、日本を含めた西洋以外の国々を訪れた際の衝撃やまなざしが生き生きと描かれています。しかし残念ながら、この著作や記述の魅力が広く伝わる機会というのは、これまで一部の研究者間を除いてあまりありませんでした。

 そこで、日文研の資料電子化や出版編集、さらに広報の各機能と連携を取りながら、日文研の総合的な研究情報発信の推進に取り組んでいる「総合情報発信室」が、このたび日文研所蔵資料発信の新たな試みとして、『世界周遊記』をもとにお子さまから大人まで楽しめるアニメーション動画制作に乗り出しました。その折、多言語発信の重要性にも鑑み、アニメーション動画は日本語版だけではなく英語版も同時制作する方針を掲げ、2種類の動画を同時制作していくこととしました。

 アニメーション制作は、まず『世界周遊記』原本の翻訳や先行研究での事実確認を押さえた上で、台本を作り直していくことからはじまりました。台本はできるだけ史実に即しつつも、子ども向けのアニメーションとして取り上げるエピソードを焦点化し、さらにカルレッティの成長物語としても楽しんでいただけるよう再構成しています。その後、同時代の文化考証も念頭に置きつつデザインを確定させ、動きや音楽を伴ったアニメーションに落とし込む作業に移行。アニメーションづくりの工程では、デザイナーや動画制作会社の方々にも多大なるご尽力をいただきました。そして最後に、出来上がったアニメーションをもとに音声吹込みやエンドロールの作成、さらに最終段階まで幾重にもおよぶ台本の確認など総合情報発信室員総出で校正を重ね、この度のアニメーション公開の運びとなりました!


◆ 「カルレッティのだいぼうけん」ストーリーと本作品のみどころ

 時は16世紀の末、大航海時代も華やかりし頃。青年カルレッティは、一人前の冒険商人になるべく修行先のスペインから世界一周の旅に船出することになります。しかし、乗り込んだ船には心配性のカルレッティのお父さんの姿が…。そこから父子、二人三脚での世界周遊がはじまります。灼熱の地パナマでは懸命に酷暑を耐え、次に立ち寄ったペルーでは銀の延べ棒を買い付けて商売で大成功。フィリピン行きの船では、お父さんは砲手長、カルレッティは甲板長に扮してなんとか海を渡り切り、その後にたどり着いた長崎でカルレッティは、伝馬船や朱印船があまりにもヨーロッパ船と違うことを目にし、さらにお茶を保管するルソン壺が驚きの高値で売れることを耳にして驚愕します。旅も後半に差し掛かるころ、マカオでお父さんは石の病(胆石)により帰らぬ人に。悲しみにくれるカルレッティでしたが、なんとしてもお父さんの意思を受け継ぎ立派な冒険商人になるのだという覚悟のもと、1人で西洋に戻るべく途中のインドでも商売を成功させます。その後、ポルトガル船での帰国途中、大西洋上でオランダ船に拿捕されるという難局も見事に乗り越えたカルレッティは、8年ぶりに再びヨーロッパの地に足を踏み入れます。

 さて、このアニメーション動画のアフレコ、実は総合情報発信室に所属する教職員が務めています。なかでも注目していただきたいのが、物語を大きく動かしていく3名のキャラクター「カルレッティ」「カルレッティのお父さん」「王さま」の配役です。カルレッティは比較文化論・文明論がご専門の牛村圭教授、カルレッティのお父さんは情報学がご専門の関野樹教授、そして王さまは日本近代史がご専門のジョン・ブリーン教授(3月末ご退職)にそれぞれご担当いただきました。ぜひ、その熱演にも注目しながら動画をご視聴いただけたら嬉しいです!

 また、「カルレッティのだいぼうけん」動画公開に関連して、複数の関連コンテンツもご用意していますので、ぜひ合わせてご覧いただくことで本作ならびに「外書」の魅力を知っていただくことができたら…と切に願っています。


この記事でご紹介した関連コンテンツはこちら!

☆アニメーション動画「カルレッティのだいぼうけん」
【日本語版】カルレッティのだいぼうけん
https://youtu.be/yfn_KFiElqo

【英語版】Carletti’s Great Adventure
https://youtu.be/FHAvRNMV4FI

☆[カルレッティ『世界周遊記』もっと深掘り解説文]
https://kutsukake.nichibun.ac.jp/obunsiryo/?post_type=book&p=3766
 
☆[カルレッティ『世界周遊記』原文(イタリア語/1701年刊行/日文研所蔵)]
https://shinku.nichibun.ac.jp/kichosho/new/books/119/mpv0400000000k8z.html

 
  • カルレッティのだいぼうけんカルレッティのだいぼうけん
  • カルレッティ役 牛村圭教授カルレッティ役 牛村圭教授
  • お父さん役 関野樹教授お父さん役 関野樹教授
  • 王さま役 ジョン・ブリーン教授王さま役 ジョン・ブリーン教授
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