閉じる

日文研の話題

[人コミュ通信 vol.11]「浪曲SPレコード デジタルアーカイブ」の魅力

2020.07.13
人文知コミュニケーターの光平〔光)〕が、日文研の活動や所蔵資料をご紹介する人コミュ通信。11回目となる今回は、6月24日に公開された「浪曲SPレコード デジタルアーカイブ」の制作を担当された古川綾子助教〔古)〕に、イチオシの資料や制作背景などアーカイブの魅力をたっぷり語っていただきました。


光)

「浪曲SPレコード デジタルアーカイブ」公開に至るまで、本当にお疲れさまでした。アーカイブの内容をうかがう前に、古川先生のご研究内容や活動についてご紹介いただけますでしょうか。

古)

落語や漫才などの演芸と日本喜劇の近現代史と、それらの資料のアーカイブを専門にしています。2014年10月から日文研で働いていますが、大学院時代に放送局で演芸番組のアーカイブに関わり、その後、大阪の資料館で学芸員をしていました。中学生の頃から演芸や演劇が好きで、20代半ばから新聞でテレビ番組評や演芸評を書きはじめ、30代からは文部科学省芸術選奨審査委員や上方漫才大賞の審査員などもしています。それから、いま一番楽しい仕事は、次の朝ドラの芸能考証です。今をときめく役者さんが多数出られるということもあって、否が応でもやる気になり台本を何度もチェックしています。


光)

経歴や多岐にわたる現在のご活動など、詳しく教えていただきありがとうございます!さて、本題にうつっていきたいのですが、まず「浪曲SPレコード デジタルアーカイブ」の概要を教えていただけますか?

古)

「浪曲SPレコード デジタルアーカイブ」は、浪曲SPレコード収集家の森川司さん(1923~2014)から寄贈されたSPレコード13,013枚、LPレコード187枚、計13,200枚のうち、重複分を除いたSPレコード9,998枚のデジタル化した音源と画像を中心に、日文研所蔵の浪曲関係資料の電子化と公開を目的としたアーカイブです。浪曲資料は平成26年3月に受け入れを開始し、日文研が推進する「機関拠点型基幹研究プロジェクト・大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」(2016~2022年度)の活動の一環として、資料電子化やデータベース化に取り組んできました。


光)

資料の受け入れから6年以上かけての大プロジェクトだったんですね。

古)

そうですね。2020年6月末時点の音源電子化状況は5,764枚で、公開後も電子化を継続し2カ月ごとに更新予定です。インターネット公開する音源は著作権保護期間満了分のみ。著作権保護期間にある音源は日文研所内限定公開(非公開)とし、利用申請が認められた利用者には図書館に設置予定のローカル版データベースにて音源を提供します。貴重レコードも多く、量的にはSPレコード音源公開では国立国会図書館歴史的音源に次ぐ規模です。インターネット公開する音源は、現時点では、2,548枚(デジタル化終了分)ですが、最終的には、著作権保護期間満了分3,853枚になる見込みです。また、インターネット公開する画像は23,000点に及びます。


光)

それはものすごい数ですね。そのなかでも特に古川先生イチオシの資料がありましたら、その聴きどころについて教えていただけますでしょうか。

古)

明治36(1903)年2月に日本初のレコード録音が誕生します。それが、英国グラモフォン社の「ガイスバーグ・レコーディングス」。この中から日本で最初に録音された浪曲レコード「後藤伏太郎の伝」「東京より東海道駅名尽し」「鍋嶋騒動」をぜひお聴きいただきたいですね。演者の浪花亭愛造は若くして亡くなったため、これら3枚の吹き込みしか残っていません。とくにユニークな1枚は「東京より東海道駅名尽し」。通る道の地名風物を畳み込んで読み上げるのを「道中づけ」といいますが、独立した演題ではないものの、落語などで登場人物が急いで移動する場面を効果づけるために使われる手法です。ここでは東海道を日本橋から相模川の渡しまで読み込んでいて、地図と比べても正確に地名が読み上げられていて面白いですよ。
浪曲は一人一節と呼ばれ、演者の数だけ、節(メロディ)があるのも魅力の一つ。今回アーカイブに含まれるレコードは9,998枚ありますので、ぜひ有名無名含む424名の浪曲師の「節」をたっぷり聴いていただきたいです。


光)

わたしもアーカイブの公開後、毎日のように様々な音源を拝聴しつつ、十人十色の「節」にすっかり魅了されています。さて、1万枚以上のSPレコードをこのようなデータベースにされるのは、目録作成から音源のデジタル化まで非常に長きにわたる大変なお仕事だったと思います。振り返ってみて、データベース完成に至るまでの具体的な作業工程や制作段階で工夫された点、またご苦労された点などありましたら教えてください。

古)

着任時にはSPレコード専用のプレーヤーも無く、大変戸惑いました。電子化に必要な機器を選ぶところから、資料課電子情報係の皆さんと一緒に進めてきました。情報課情報システム係の皆さんにもご助言いただきながら、公開までたどり着けたと思います。いまも音源のデジタル化作業は継続中ですが、片面3分のレコードのデジタル化は、レコードをプレーヤーに設置して再生したら、3分なんてあっという間で、またすぐ片面という風に、とにかく手がかかります。資料課電子情報係には、その作業を根気よく丁寧に続けていただいていて、本当に感謝しています。

それから、一番苦労というか、時間を費やしたことは、著作権に関わる調査です。424名の浪曲師のうち、インターネットで名前が検索できる人は1割もいませんから、古い名簿や新聞雑誌の雑報などを丁寧に見ていくしかなく、とにかく時間がかかりました。浪曲の全盛期は大正末から昭和初期といわれています。2018年12月に著作権法が改正され保護期間が延長されなければ、もっと多くの音源を公開できたのですが…残念ながら仕方のないことです。ただ、1本でも多く公開するためには、没年を調べるしかなく、公開した今でも没年がわからない人の調査は続けています。また、レコードの出版年は目録情報がデジタル化されておらず、こちらも各レコード会社の広告や年報などを当たったものの、どちらの調査も労多くして益少なしといいますか。デジタルアーカイブの入力項目はレコード1枚に対して全40項目あり、そのチェックも根気のいる作業で、自分だけでは手が回らず、電子情報係の皆さんにも手伝っていただきました。


光)

お話をうかがっているだけでも、非常に気の遠くなるような、本当に大変なお仕事だったことがよく分かります。最後になりますが、今後の展望や読者の皆さんへメッセージがありましたら、ぜひお願いします。

古)

公開初日に、浪曲師の玉川奈々福さんや真山隼人さんなど若い浪曲師の方々から、たくさんメッセージをいただき、ほっとしました。浪曲に造詣の深い、作家の町田康さんからも、あたたかいメッセージをいただき、悶絶するほど嬉しかったです。どんなものかなというくらいで結構ですので、ぜひ一度アクセスしてみてください!


今回ご紹介した「浪曲SPレコードデジタルアーカイブ」では、音源を演者名や曲名だけでなく、レーベルから検索できるのも嬉しいところ。また、「関連資料」検索では、チラシやプログラム、ポスター、番付や書籍、雑誌まで、浪曲に関連する様々な資料を探すことができ、各資料は高画像データで閲覧していただくことができます。視覚だけでなく、聴覚でも楽しめる「浪曲SPレコードデジタルアーカイブ」。是非みなさま一度ご視聴ください。

浪曲SPレコードデジタルアーカイブ

  • お話をうかがった古川綾子助教お話をうかがった古川綾子助教
  • アーカイブの資料検索画面アーカイブの資料検索画面
  • ポリドールレコードのチラシ(1932年)ポリドールレコードのチラシ(1932年)
  • 浪曲SPレコードデジタルアーカイブ浪曲SPレコードデジタルアーカイブ
トップへ戻る