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日文研の話題

[人コミュ通信 vol.6]今だから知りたい!「デジタル・ヒューマニティーズ(人文情報学)」の魅力あれこれ

2020.04.21
新型コロナウイルス感染症の影響が全国的に広がり、様々な場面で急加速度的にオンライン化が進んでいる昨今。長時間、自宅にいる時だからこそ色んな面白い資料に出会いたい!また、見つけた資料を色んな角度から見てみたい/楽しみたい!そう思っておられる方も多いのではないでしょうか。そんなときに嬉しいのが、現地に行かずとも資料と出会えるオープン・アクセスによる資料データの公開。そこで今回は、情報学がご専門の関野教授()に、オープン・アクセスを支える「人文情報学」のいろは、そして今後の展望。さらに資料の可視化にもつながる「HuTime」というツールについて人文知コミュニケーターの光平()がお話をうかがってきました!


光)

まず最初に、先生のご研究分野についてご紹介いただけますか?

関)

専門分野は基本的に情報学です。とりわけ、時間を使った情報のデータ化や表現を研究の対象としています。もうちょっと大きなくくりでいうと、「人文情報学」という分野に関わっているといえるでしょうか。


光)

「人文情報学」というのは、通常の情報学とどういった部分が違うのでしょうか?

関)

「人文情報学」は、英語の「Digital Humanities(デジタル・ヒューマニティーズ)」に相当する分野です。人文学的な資料や問題を情報学の技術・手法を使って可視化したり、解析したりすると共に、人文学的問題を契機として新たな情報学の分野を切りひらくことにもつながる、情報学と人文学の融合分野ですね。


光)

人文学の領域で発生する問題を情報学的な手法を用いて解くことによって、新しい知識や視点を得ることができるわけですか。なるほど!様々な研究領域への拡がりが期待できる分野なんですね。

関)

そうです。「人文情報学」は、情報学自体のいろんな分野の理論や技術を集めた、いわゆる情報学の中での学際的な分野ともいうこともできます。「人文情報学」で使われる情報技術の中には、画像解析や、データベースに関連する技術、メタデータに関する知識やノウハウなど、いろんな分野が絡んでいます。このメタデータの話になると、図書館情報学などの研究者も関わりが深くなります。そうした、色んな分野の人が集まって、「情報」という切り口から人文学に関する史資料や題材をどうやって読み解いていくのか、その知恵が学際的に集まったものが、いま「人文情報学」と呼ばれているものです。


光)

「人文情報学」領域について、非常に分かりやすく教えていただきありがとうございます。では、それを踏まえ、今後どのように人文学資料をさらに広く効果的に公開していったらよいのか、そういったお話もうかがえたらと思います。

関)

まず、最近よく言われているものの一つ、FAIR(フェア)原則についてお話しましょうか。FAIR原則の「FAIR」は、「Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)」の略で、公開されるデータの理想的な状態を表現した原則のことです。要するに、資料などに関するデータを、誰もが容易に発見し、それにアクセスできる、なおかつ、他から公開されている別のデータとも関連させることができる。さらに、それらのデータを加工して、新たなデータやコンテンツを作ることができる。そういった要件が保証されていることが、いま様々分野のデータに求められています。もちろん、色んな制約があって、なかなかすべての要件を満たすことができないデータもあるでしょうが、できる限り、このFAIR原則に近づけていくというのが理想だと思います。


光)

なるほど。日文研にはいまおよそ50種のデータベースがありますが、FAIR原則のもとで資料公開が一層進めば、所蔵資料が日文研に来ずして、日本学研究者だけではなく異分野の研究者、さらには一般の方など、より多くの方がたに触れていただける機会にもつながりますね。

関)

そうですね。日文研だけでなく、他の機関でも同じようにデータが公開されていけば、日文研の資料と他の機関の資料を使って、全く新しい別のコンテンツができたりする。そういうことにもつながっていくわけですね。


光)

お話をうかがっていて、これによりさらに多くの方がたが様々な資料に出会う機会が増える、そして面白い研究がさらに増えていきそうな、そんな予感がしてワクワクします。少し話は変わってしまうのですが、先生のご専門のひとつ「HuTime」についても教えていただけますか?

関)

「HuTime」と呼ばれている中には、「HuTime」のプロジェクトで研究開発を進めているさまざまなソフトウェアと、狭義の意味で、時間に基づいて情報の可視化や解析を行うためのソフトウェアである時間情報システム「HuTime」を指している場合があります。時間情報システム「HuTime」は、時間に沿ってグラフや年表を並べて見せることによって、それらを時系列で比較して関連性を見つけたり、特定の条件で情報を抽出したりすることができる仕組みになっています。「HuTime」では、文字情報(年表)と数値情報(折れ線グラフなど)を混ぜて、1つの時間軸上に表示できることが大きな特徴です。これにより、気象・経済といった数値で表現される情報と、歴史などの文字や文章を主体に表現される情報を組み合わせて利用することが可能になります。


光)

なるほど。私は音楽療法の歴史研究をしていますが、年代順に新聞、雑誌記事から抽出した音楽的なキーワードが、その時々の社会情勢などとどう連動していくのか――。そういったことも、もしかすると「HuTime」を使うことで見えてくるのかもしれない!と個人的にぜひ使ってみたいと思いました。実際に、「HuTime」は今どんな研究分野で使われていますか?

関)

「HuTime」プロジェクトのソフトウェアでよく利用されているのは、暦変換の仕組みです。和暦では、漢数字や干支が日付の表現に使われますが、これらを自動的に解釈して、西暦などの他の暦の日付に変換します。例えば、「天正乙亥年五月廿一日」(※長篠の戦)のような表現から、西暦の「1575-06-29」を簡単に得ることができます。時間情報システム「HuTime」では、入力したデータを、時間順に整理して見せるためのインターフェイスがよくつかわれています。これは、Google Mapsが地図でやっていることを年表でやっていると考えることができます。たとえば、Google Mapsで〔カレー屋〕と調べると地図上にいくつかのカレー屋情報が出てきますよね。それと同じで、何らかの〔出来事〕と検索すると、それが年表の中にポンポンポンと検索結果として出てくる仕組みを作っているんです。


光)

情報を可視化し、知りたいことを多面的にみることができる――。研究分野だけでなく、もっと拡がりある使い方が期待できますね!

関)

はい。時間という話は人文系に限らず、他のところでも使えるわけですね。時間に関して色んなものを並べるという意味では、環境の話ももちろん、ちょっと極端な話をすると工場のライン生産管理にも使えるし、鉄道ダイヤにのっけても面白いですし!


光)

面白そう!自宅にいる時間が長い今だからこそ、色んな活用の仕方で皆さんにご利用いただきたいですね。

関)

ちなみに、音楽つながりでいうと「HuTime」の表示の仕方、タイムラインやグラフを並べるというあのアイディアは、交響曲のスコアをみて思いついたんですよ。


光)

なるほど!私が「HuTime」をなぜか身近に感じたのはそういったところにもあったのかもしれません!



例えば、江戸時代など興味ある時期を区切って、そのとき日本や世界でどのようなことが起きていたのか――そのときに関連する文字情報や、気候や経済に関わる数値情報など、色々な本に書かれている内容を「HuTime」入れ込んでみると、これまで見えなかった面白い当時の様子が浮かび上がってくるかもしれません!ぜひ、さまざまな観点からオープン・アクセスや、情報を可視化するツールをお試しいただけたら…と思います。そして、今後の日文研オープン・アクセスの展開にも乞うご期待を!
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