閉じる

日文研の話題

[日文研フォーラム・リポート]なぜ、いま尾崎秀実の中国論が重要か(2020年2月14日)

2020.03.12
 2月14日、ハートピア京都にて、比較文学、中日近代文学・文化関係史を専門とする王中忱外国人研究員(清華大学教授)を講師に迎え、日文研フォーラムが開催されました。「思想の越境と連鎖――尾崎秀実の中国論と「中国農村派」」と題した講演に141名が参加しました。

 尾崎秀実(1901-1944)といえば共産主義者であり、「ゾルゲ事件」として知られるソ連のスパイ組織の一員だったことは有名です。しかし一方で、中国問題の評論家として多数の著作を残しているにもかかわらず、それに関する本格的な研究は少ないと言えます。今回の報告では、1920~30年代、朝日新聞社の上海特派員だった尾崎と、中国のマルクス主義理論家グループ「中国農村派」、とくにその指導者であった陳翰笙との出会いを軸に、尾崎の思想と言論の背景にあった国際的な知識交流のありように迫りました。

 20年代末、中国に派遣されたマジャールを中心とするコミンテルン専門家たちの間で、中国の歴史と現状分析に関する論争が繰り広げられましたが、中国における社会調査の遅れにより「アジア的生産様式」をめぐる抽象的な議論に陥りがちでした。この点を克服すべく大規模な農村調査に乗り出したのが、「中国農村派」の前身、陳翰笙率いる国立中央研究院社会科学研究所の社会学組だったのです。実は、尾崎と陳は、ゾルゲグループのメンバーとしても協力関係にあり、陳の農村研究に注目した尾崎は、お互いの議論を通じて「中国社会の構造的特質」について考察を深めていったといいます。

 発表後、コメンテーターを務めた劉建輝・日文研副所長は、「近代日本の方向性を見極めるうえで、どのように中国を認識するかという問題に着眼した尾崎は思想家として重要な存在だったことがわかる。尾崎=スパイという言説を解体した」と、研究内容を高く評価しました。
 
 
(文・呉座勇一 研究部 助教/白石恵理 総合情報発信室 助教)
トップへ戻る