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お知らせ

伊東俊太郎名誉教授が令和2年の文化功労者に選ばれました

2020.10.28
 名誉教授の伊東俊太郎先生が本年の文化功労者に選ばれました。科学哲学、科学史、比較文明学分野でのご業績によるものです。東京大学では文学部哲学科で学ばれましたが、先生の学問のご関心はきわめて広範に及び、文理融合の先駆けともお呼びできる研究者でいらっしゃいます。十指をこえる語学力、そして緻密さと大胆さとを併せ持つアプローチ、を駆使して、科学史(とくに数学史)分野で先駆的なお仕事を積み重ねてこられました。昭和50年代末には多くの碩学を顧問格にお迎えしたうえで、日本比較文明学会発足の労を執られ、初代会長の任に就かれました。こうして比較文明学が我が国において学問として根づく基盤ができ上がりました。

 長らく東京大学駒場キャンパスで科学史・科学哲学専攻課程所属教員として学部生の授業をご担当の一方、大学院では比較文学比較文化課程にも出講されて大学院生の指導にあたられました。授業は『源氏物語』や空海『三教指帰』をテーマにする年度もあり、ご関心の広さは、学生はもとより諸教授をも驚嘆させるものでした。同課程所属の大学院生に対して、良いところを見つけて助言を与え激励するというご指導のスタンスに、救われたり心強く思ったりした者は、私も含めて多数にのぼりました。

 学際的、国際的アプローチを採る研究者である伊東先生が、東大退官後に学際性、国際性を謳う日文研へ研究の場を移されたのは至極当然のことでした。移籍のいきさつ等については、先生ご自身が梅原猛先生追悼集所収の「梅原猛先生を憶う」で触れていらっしゃいます。日文研では共同研究「日本人の自然観」をはじめてとして精力的にお仕事を展開されました。卆寿を迎えられた今も旺盛な知的好奇心の強さ、鋭さにはお話をうかがうたびに敬服するばかりです。先生の多くのご業績は精選のうえ『伊東俊太郎著作集(全12巻)』( 麗澤大学出版会、2008-2010年)に収録され、科学史・科学哲学、そして比較文明学の一大成果の集積をここに見ることができます。

 伊東先生のこのほどの文化功労者へのご選出は、科学哲学、科学史、比較文明学専攻の研究者ゆえであるにとどまらず、学際的、国際的な碩学ゆえの選出でもあろう、昭和の昔に学恩を受けた後学の一人としてはそのように思えてなりません。先生のご健勝を祈念しつつ、お祝いの言葉を結ばせていただくこととします。


(研究部教授 牛村 圭)
 
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