■研究活動 共同研究 2013年度

日記の総合的研究の総括

領域 第五研究域 文化情報

 人は何故、日記を記すのであろうか。言い換えれば、日記を記すことによって、日本人はいったい、何を得ようとしていたのであろうか。文学者たちは何故、日記という形式を用いて、自己の作品を世に問うたのであろうか。さらに、貴族たちは、何故にあのような膨大な日記(古記録)を記し続けたのであろうか。
 本研究においては、日本史学(日本古代史・中世史・近世史・近代史・文化史)、日本文学(日本中古文学・中世文学・近代文学)、そして心理学(臨床心理学を含む)、それぞれの分野における第一線の研究者を一堂に集め、研究会における議論を集積することによって、日記と日本人との関わりを、総合的に究明しようとするものである。
 それぞれの記主の立場と記載目的、記述の内容と意義を読み解きながら、時代の特質と変化、また作品の本質を探り出し、さらには「日記」と呼ばれるものの分類や、その評価、享受史の観点など、既往の研究を超える角度からの解明も行ないたい。
 その際、単にそれぞれの研究員が、自分の専門分野とする古記録(あるいは作品)に関する研究発表を行なうのみではなく、たとえば一つの古記録を題材として、異なる分野の研究者が、複数の研究発表を行なえば、どのような化学変化が生じることになるのか、本研究は、そのような実験的な試みをも、視野に入れている。
 たとえば、ある古代の古記録について、政治史・社会史・経済史・宗教史など、さまざまな得意分野を持つ日本古代史の研究員による研究発表を行なうのみならず、これを日本中世史の研究者が読んでみれば、自分が日常的に読んでいる中世の古記録と比較するという方法から、新たな視点が発見できるであろう(日本近世史・日本近代史の研究者についても同様である)。
 また、日頃は仮名物の女流日記文学を読んでいる日本文学の研究者が、男性貴族の記録した古記録を読んで研究発表を行なえば、逆に普段は男性の記録した古記録しか読んでいない日本史学の研究者が、女流仮名日記を読めば、どのような影響を受け合うのか、きわめて興味深いところである。
 さらに、特別に心理学の研究者と臨床心理学の研究者を共同研究員として招請する。この分野の研究者が、古記録や日記文学を心理学的、臨床心理学的に解明すれば、どのような成果が得られるのであろうか。
 これらの研究発表のもたらす成果は、お互いにとっての知的刺激となるのみならず、それぞれの得意分野においても、必ずや有益な体験となり、新たな研究成果を生み出す契機となるであろうことを予測している。
 3年間の研究期間の間、毎年、中間報告的に『日本研究』に研究論文を投稿した後、4年後には論集を世に出したいと考えている。日本文化の発展に関して、画期的な成果が得られる可能性を秘めた研究となり得るであろう。
(以下の研究組織は2013年4月1日現在のものです)

研究代表者 倉本一宏 国際日本文化研究センター・教授
幹事 榎本 渉  国際日本文化研究センター・准教授
共同研究員 有富純也 成蹊大学文学部・准教授
板倉則衣 元中央大学院生
井原今朝男 国立歴史民俗博物館歴史研究部・教授
今谷 明 帝京大学文学部・特任教授・国際日本文化研究センター名誉教授
磐下 徹 大阪市立大学大学院文学研究科・講師
上島 享 京都大学大学院文学研究科・准教授
上野勝之 元京都大学大学院生
尾上陽介 東京大学史料編纂所・准教授
小倉慈司 国立歴史民俗博物館・准教授
加藤友康 明治大学大学院・特任教授
久冨木原玲 愛知県立大学日本文化学部・教授
古藤真平 古代学協会・非常勤研究員
近藤好和 國學院大學文学部・兼任講師
佐藤 信 東京大学大学院人文社会系研究科・教授
佐藤 全敏 信州大学人文学部・准教授
下郡 剛 沖縄工業高等専門学校総合科学科・准教授
末松 剛 京都造形芸術大学芸術学部・准教授
曽我良成 名古屋学院大学リハビリテーション学部・教授
中村康夫 国文学研究資料館研究部・教授
名和 修 陽明文庫・文庫長
西村さとみ 奈良女子大学文学部・助教
カレル・フィアラ 福井県文書館・副館長
藤本孝一 龍谷大学文学部・客員教授
古瀬奈津子 お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科・教授
松薗 斉 愛知学院大学文学部・教授
三橋順子 明治大学・非常勤講師
三橋 正 明星大学人文学部・教授
森 公章 東洋大学文学部・教授
山下克明 大東文化大学東洋研究所・研究員(非常勤)
荒木 浩 国際日本文化研究センター・教授
井上章一 国際日本文化研究センター・教授
堀井佳代子 国際日本文化研究センター・技術補佐員
吉川真司 国際日本文化研究センター/京都大学大学院文学研究科・客員教授/教授
中町美香子 国際日本文化研究センター/京都大学・客員准教授/非常勤講師
海外共同研究員 劉 暁峰 清華大学・人文社会科学研究院・歴史系(中華人民共和国)・教授