■研究活動 共同研究 2013年度

日本的教育文化の複数地域展開に関する比較研究-ブラジル・フィリピン・ハワイ・アメリカの日系教育史を中心に-

領域 第五研究域 文化情報

 北米の日系移民研究において「空白の時代」と呼ばれた1930年代から戦中期に関する研究が蓄積されるとともに、満洲をはじめとする近代日本植民地研究もますますさかんになりつつある。これに対して、南米ブラジルの日系移民研究は大きく立ち遅れていたものの、2008年の「ブラジル日本移民百周年」を機にいくつかのプロジェクトが企画され、成果が生み出されている。そうした移植民研究の進展の中で注目されるのは、一国史的史観からの脱却と越境史観の台頭であろう。
 本プロジェクトは、こうした近年の移植民研究の成果を活用し、越境史的な視点で教育をめぐる日系子弟の複数文化体験や人間形成の様相を比較しつつ、各地域間の関係性を明らかにする試みである。具体的には、第二次大戦前・戦中期を主な対象時期とし、帝国日本の非勢力圏(ブラジル・フィリピン・ハワイ・アメリカ)と勢力圏(台湾・満洲・南洋など)の子弟教育の実態比較から、両者の共通点と相違点、相互の関連性を整理する。また、これらの地域に日本本土を加えて、子弟教育をめぐる人びとや文化の動きを、地域間相互の連動およびネットワークとして捉えなおす。こうした帝国のウチ・ソトにおけるマクロなレベルでの総体的把握の上に、帝国形成のはざまを移動した人びとの生活史的実態に迫る。
 本プロジェクトは1年という短期間であるため、特に海外に拡散した日系子弟の教育体験に焦点化したミクロなレベルでの把握のために、共同研究者の専門領域別に次のような4つの研究方向を定めたい。
①【言説と教育】各地域における排日・親日言説と教育との関係の推移、その中での日系子弟教育の動向の把握
②【教育の実態】各地域の日系教育機関の成立事情と性格、日本との関係、教育理念と実践、生徒・教師の生活史、日本語・日本文化継承など個別事例の比較と考察
③【教育とメディア】日本語文芸・音楽・体操という教育とメディアをめぐる各地域の日本人と子弟の複数文化体験の比較
④【移動とID形成】日本と各地域間の移民とその子弟の往還から見た複数文化体験・複合的アイデンティティ形成の比較・検証
 これら4つの方向を柱とし、近代日本人が世界各地で越境を繰り返す中で、独自の日系子弟教育のネットワークや体系、文化を創出していく過程とメカニズムを明らかにしていきたい。また、戦後の世界再編の中で、そうした日系子弟の人的資源や文化資源がどのように活用されたのかを知るための手がかりとしたい。
 期待される成果としては、帝国の非勢力圏であるブラジル・フィリピン・ハワイ・アメリカという各地域の日系子弟教育の個別的実態に迫りながら、複数地域を越境史的に把握し、勢力圏との関係においてもグローバルな視点から再認識することが可能となる。さらにそれは、日本近現代史の一部として日本人海外移住史を補完する意味を有し、将来、近代日本人移植民と日系子弟教育・文化のグローバルヒストリーを記述する際に、すぐれた枠組みと材料を提供することとなろう。
(以下の研究組織は2013年4月1日現在のものです)

研究代表者 根川幸男 国際日本文化研究センター/ブラジリア大学外国語・翻訳学部・外国人研究員/准教授
幹事 井上章一  国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 浅野豊美 中京大学国際教養学部・教授
飯窪秀樹 学習院大学経済学部・非常勤講師
伊志嶺安博 長崎外国語大学外国語学部・非常勤講師
大浜郁子 琉球大学法文学部・准教授
カール呉 日本学術振興会外国人特別研究員(中京大学国際教養学部)
小林茂子 中央大学文学部・非常勤講師
坂口満宏 京都女子大学文学部・教授
佐々木剛二 日本学術振興会特別研究員(PD)
住田育法 京都外国語大学外国語学部・教授
高橋美樹 高知大学教育研究部・准教授
中原ゆかり 愛媛大学法文学部・教授
中村茂生 特定非営利活動法人 地域文化資源ネットワーク・理事長
西村大志 広島大学大学院教育学研究科・准教授
東 悦子 和歌山大学観光学部・准教授
松盛美紀子 同志社大学大学院アメリカ研究科・博士後期課程
物部ひろみ 同志社大学グローバル地域文化学部・准教授
森本豊富 早稲田大学人間科学学術院・教授
柳下宙子 外務省外交史料館・課長補佐
吉田 亮 同志社大学社会学部・教授
細川周平 国際日本文化研究センター・教授
石川 肇 国際日本文化研究センター・プロジェクト研究員
海外共同研究員 野呂博子 ビクトリア大学アジア・太平洋学科(カナダ)・准教授・学科長
小林ルイス・オクタビオ眞登 サンパウロ人文科学研究所(ブラジル)・理事