■研究活動 共同研究 2009年度
東アジアにおける知的システムの近代的再編成
領域 第四研究域 文化関係
東アジアにおける今日の知のシステムは、19世紀半ばから20世紀を通じて、「西洋」文化を受け入れ、伝統的なシステムを再編することによって、地域的なちがいをもちつつも、ヨーロッパやアメリカとは相対的に独自なものを形成してきた。しかし、そのことは、よく自覚されていない。第二次大戦後の日本では、これを「西洋化」としてとらえ、その達成度をはかる傾向が強かったからである。 しかし、日本においては、東アジアの伝統文化を受け入れながら、独自に形成してきた文化システムがあり、それが近代的に再編成されたのである。もちろん、そこには歴史的条件が働いている。そして、それが台湾、朝鮮、中国大陸へと伝播してゆく様子が観察される。今日の東アジアの知的システムは、それらが基盤となって、さらに再編成が重ねられてきたものである。われわれは、そのなかに置かれており、そのシステム自体に規定されている。 一例として、知的システム全体における宗教の位置を考えてみよう。19世紀のヨーロッパの標準では、キリスト教を基準とした宗教と、人文社会科学および自然科学とは、基本的に別領域に属する知的システムがつくられていた。しかし、日本においては、国立大学文学部の哲学科内に宗教学科が置かれ、ヨーロッパのどの国とも異なる編成をとった。これには様ざまな理由が考えられるが、キリスト教と儒学の性格のちがいも作用している。そして、この編成は20世紀をつうじて東アジアに共有されていき、今日にいたっている。また、19世紀半ばのイギリスにおいて成立した「工学」を、いち早く組み込んだことも、日本のアカデミズムの特殊性のひとつにあげることができる。 このような編成上の大きなちがいに無頓着のまま、個々の要素の「西洋化」を検討しているかぎり、知の「近代化」の実態に迫ることはできず、したがって、東アジア近代の知の特質を論じることもできない。受け入れた「西洋」文化の要素と、それを受けとめた「伝統」的要素との双方を検討し、全体の知的システムの編成替えが、どのように進んでいったかを再検討することによってこそ、東アジアの知的な近代化の様相が明らかになる。 そして、この研究には、近代化を推進した価値観そのものを対象として検討することが不可欠である。それを検討する研究者の立場が、たとえば「近代化」の推進と「伝統」保守のどちらかに偏るなら、実際に、そのあいだで争われてきた問題について、学問的に中立の立場から評価することはできない。しかも、工業化にともなう社会問題の発生、都市の膨張、森林の大規模伐採による洪水の多発、公害の発生などなど、近代化の弊害を乗りこえようとする様ざまな営みも、20世紀を通じて行われてきた。それらが、どのような結果を生み、今日に至っているのかの再検討も不可欠である。 総じて、東アジアの伝統文化の諸要素、近代化における知的システムの再編、近代の弊害を超えようとする営みを総合して再吟味することが問われているのである。それら全体を総括し、今日、ありうべき知的システムの構築に資すること、その作業を国際的にひらかれたかたちで展開することが、本共同研究の目的である。
共同研究員 | 浅岡邦雄 | 中京大学文学部・准教授 |
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〃 | 阿毛久芳 | 都留文科大学文学部・教授 |
〃 | 荒川清秀 | 愛知大学国際コミュニケーション学部・教授 |
〃 | 荒木正純 | 白百合女子大学文学部・教授 |
〃 | 有馬 学 | 九州大学名誉教授 |
〃 | 磯部 敦 | 中央大学・非常勤講師 |
〃 | 井上 健 | 東京大学大学院総合文化研究科・教授 |
〃 | 今村忠純 | 大妻女子大学比較文化学部・教授 |
〃 | 岩月純一 | 東京大学大学院総合文化研究科・准教授 |
〃 | 王 暁葵 | 愛知県立大学多文化共生研究所・客員共同研究員 |
〃 | 岡田建志 | 静岡文化芸術大学文化政策学部・准教授 |
〃 | 梶山雅史 | 岐阜女子大学文化創造学部・教授 |
〃 | 金子 務 | 大阪府立大学名誉教授 |
〃 | 川島 真 | 東京大学大学院総合文化研究科・准教授 |
〃 | 川尻文彦 | 帝塚山学院大学人間科学部・准教授 |
〃 | 衣笠正晃 | 法政大学国際文化学部・教授 |
〃 | 木村直恵 | 学習院女子大学国際文化交流学部・准教授 |
〃 | 小谷野 敦 | 評論家 |
〃 | 権藤愛順 | 甲南大学文学部・非常勤講師 |
〃 | 佐藤一樹 | 二松学舎大学国際政治経済学部・教授 |
〃 | 佐藤 バーバラ | 成蹊大学文学部・特別任用教授 |
〃 | 全 美星 | 同志社大学言語文化教育センター・嘱託講師 |
〃 | 鈴木敏昭 | 金沢大学・非常勤講師 |
〃 | 須藤遙子 | 愛知県立芸術大学・非常勤講師 |
〃 | 孫 安石 | 神奈川大学外国語学部・教授 |
〃 | 孫 江 | 静岡文化芸術大学文化政策学部・准教授 |
〃 | 高柳信夫 | 学習院大学外国語教育研究センター・教授 |
〃 | 竹村民郎 | 元大阪産業大学教授 |
〃 | 竹本寛秋 | 金沢大学大学教育開発・支援センター・特任助教 |
〃 | 田中 比呂志 | 東京学芸大学教育学部・教授 |
〃 | 陳 継東 | 武蔵野大学人間関係学部・准教授 |
〃 | 陳 捷 | 国文学研究資料館文学資源研究科・准教授 |
〃 | 陳 力衛 | 成城大学経済学部・教授 |
〃 | 寺澤行忠 | 慶應義塾大学名誉教授 |
〃 | 十重田 裕一 | 早稲田大学文学学術院・教授 |
〃 | 中川成美 | 立命館大学文学部・教授 |
〃 | 中嶋 隆 | 早稲田大学教育・総合科学学術院・教授 |
〃 | 橋本行洋 | 花園大学文学部・教授 |
〃 | 林 正子 | 岐阜大学地域科学部・教授 |
〃 | 檜垣樹理 | 早稲田大学国際教養学術院・准教授 |
〃 | 兵藤裕己 | 学習院大学文学部・教授 |
〃 | 平野 健一郎 | 人間文化研究機構地域研究推進センター・センター長 |
〃 | 福井純子 | 立命館大学・非常勤講師 |
〃 | 星野靖二 | 國學院大學研究開発推進機構日本文化研究所・助教 |
〃 | 堀 まどか | |
〃 | 増田周子 | 関西大学文学部・教授 |
〃 | 松田 清 | 京都大学大学院人間・環境学研究科・教授 |
〃 | 真鍋昌賢 | 大阪大学大学院文学研究科・助教 |
〃 | 村田 雄二郎 | 東京大学大学院総合文化研究科・教授 |
〃 | 目野由希 | 国士舘大学文学部・講師 |
〃 | 茂木敏夫 | 東京女子大学現代教養学部・教授 |
〃 | 安田敏朗 | 一橋大学大学院言語社会研究科・准教授 |
〃 | 八耳俊文 | 青山学院女子短期大学・教授 |
〃 | 山本美紀 | 環太平洋大学・講師 |
〃 | 吉岡 亮 | 苫小牧工業高等専門学校・准教授 |
〃 | 依岡隆児 | 徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部・教授 |
〃 | 李 梁 | 弘前大学人文学部・准教授 |
〃 | リース・モートン | 東京工業大学外国語研究教育センター・教授 |
〃 | 林 少陽 | 東京大学教養学部・特任准教授 |
〃 | 上垣外 憲一 | 大手前大学総合文化学部・教授 |
研究代表者 | 鈴木貞美 | 国際日本文化研究センター・教授 |
幹事 | 劉 建輝 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
共同研究員 | 稲賀繁美 | 国際日本文化研究センター・教授 |
〃 | 小松和彦 | 国際日本文化研究センター・教授 |
〃 | 磯前順一 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | Frederik CRYNS | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | 郭 南燕 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | 安野一之 | 国際日本文化研究センター・技術補佐員 |
海外共同研究員 | 馮天瑜 | 武漢大学中国伝統文化研究中心主任・教授 |
〃 | 韓東育 | 東北師範大学歴史文化学院・教授 |
〃 | 黄克武 | 台湾中央研究院近代史研究所・教授 |
〃 | 麻国慶 | 中山大学人類学系・教授 |
〃 | 章清 | 復旦大学歴史学系・教授 |
〃 | 王 中忱 | 清華大学人文社会科学院・教授 |