■研究活動 共同研究 2007年度
東アジアにおける知的システムの近代的再編成
東アジアにおける今日の知のシステムは、19世紀半ばから20世紀を通じて、「西洋」文化を受け入れ、伝統的なシステムを再編することによって、地域的なちがいをもちつつも、ヨーロッパやアメリカとは相対的に独自なものを形成してきた。しかし、そのことは、よく自覚されていない。第二次大戦後の日本では、これを「西洋化」としてとらえ、その達成度をはかる傾向が強かったからである。 しかし、日本においては、東アジアの伝統文化を受け入れながら、独自に形成してきた文化システムがあり、それが近代的に再編成されたのである。もちろん、そこには歴史的条件が働いている。そして、それが台湾、朝鮮、中国大陸へと伝播してゆく様子が観察される。今日の東アジアの知的システムは、それらが基盤となって、さらに再編成が重ねられてきたものである。われわれは、そのなかに置かれており、そのシステム自体に規定されている。 一例として、知的システム全体における宗教の位置を考えてみよう。19世紀のヨーロッパの標準では、キリスト教を基準とした宗教と、人文社会科学および自然科学とは、基本的に別領域に属する知的システムがつくられていた。しかし、日本においては、国立大学文学部の哲学科内に宗教学科が置かれ、ヨーロッパのどの国とも異なる編成をとった。これには様ざまな理由が考えられるが、キリスト教と儒学の性格のちがいも作用している。そして、この編成は20世紀をつうじて東アジアに共有されていき、今日にいたっている。また、19世紀半ばのイギリスにおいて成立した「工学」を、いち早く組み込んだことも、日本のアカデミズムの特殊性のひとつにあげることができる。 このような編成上の大きなちがいに無頓着のまま、個々の要素の「西洋化」を検討しているかぎり、知の「近代化」の実態に迫ることはできず、したがって、東アジア近代の知の特質を論じることもできない。受け入れた「西洋」文化の要素と、それを受けとめた「伝統」的要素との双方を検討し、全体の知的システムの編成替えが、どのように進んでいったかを再検討することによってこそ、東アジアの知的な近代化の様相が明らかになる。 そして、この研究には、近代化を推進した価値観そのものを対象として検討することが不可欠である。それを検討する研究者の立場が、たとえば「近代化」の推進と「伝統」保守のどちらかに偏るなら、実際に、そのあいだで争われてきた問題について、学問的に中立の立場から評価することはできない。しかも、工業化にともなう社会問題の発生、都市の膨張、森林の大規模伐採による洪水の多発、公害の発生などなど、近代化の弊害を乗りこえようとする様ざまな営みも、20世紀を通じて行われてきた。それらが、どのような結果を生み、今日に至っているのかの再検討も不可欠である。 総じて、東アジアの伝統文化の諸要素、近代化における知的システムの再編、近代の弊害を超えようとする営みを総合して再吟味することが問われているのである。それら全体を総括し、今日、ありうべき知的システムの構築に資すること、その作業を国際的にひらかれたかたちで展開することが、本共同研究の目的である。
代表者 | 鈴木 貞美 | 国際日本文化研究センター・教授 |
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幹事 | 劉 建輝 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
班員 | 浅岡 邦雄 | 中京大学文学部・准教授 |
〃 | 阿毛 久芳 | 都留文科大学文学部・教授 |
〃 | 荒川 清秀 | 愛知大学国際コミュニケーション学部・教授 |
〃 | 荒木 正純 | 筑波大学大学院人文社会科学研究・教授 |
〃 | 有馬 学 | 九州大学大学院比較社会文化研究院・教授 |
〃 | 池内 輝雄 | 國學院大學文学部・教授 |
〃 | 磯部 敦 | 日本学術振興会特別研究員 |
〃 | 井上 健 | 東京大学大学院総合文化研究科・教授 |
〃 | 今村 忠純 | 大妻女子大学比較文化学部・教授 |
〃 | 岩月 純一 | 一橋大学大学院言語社会研究・准教授 |
〃 | 王 暁葵 | 愛知県立大学外国語学部・客員准教授 |
〃 | 岡田 建志 | 静岡文化芸術大学文化政策学部・准教授 |
〃 | 梶山 雅史 | 岐阜女子大学文化創造学部・教授 |
〃 | 金子 務 | 大阪府立大学・名誉教授 |
〃 | 上垣外 憲一 | 帝塚山学院大学文学部・教授 |
〃 | 川島 真 | 東京大学大学院総合文化研究科・准教授 |
〃 | 川尻 文彦 | 帝塚山学院大学人間文化学部・准教授 |
〃 | 衣笠 正晃 | 法政大学国際文化学部・教授 |
〃 | 小谷野 敦 | 著述家 |
〃 | 酒井 敏 | 中京大学文学部・教授 |
〃 | 佐藤 一樹 | 二松学舎大学国際政治経済学部・教授 |
〃 | 佐藤 バーバラ | 成蹊大学文学部・教授 |
〃 | 全 美星 | 同志社大学言語文化教育センター・嘱託講師 |
〃 | 孫 安石 | 神奈川大学外国語学部・准教授 |
〃 | 孫 江 | 静岡文化芸術大学文化政策学部・准教授 |
〃 | 高柳 信夫 | 学習院大学外国語教育研究センター・教授 |
〃 | 竹村 民郎 | 元大阪産業大学教授 |
〃 | 竹本 寛秋 | 北海道情報大学・非常勤講師 |
〃 | 田中 比呂志 | 東京学芸大学教育学部・准教授 |
〃 | 陳 継東 | 武蔵野大学人間関係学部・准教授 |
〃 | 陳 捷 | 国文学研究資料館文学資源研究系・准教授 |
〃 | 陳 力衛 | 目白大学外国語学部・教授 |
〃 | 津本 信博 | 早稲田大学教育・総合科学学術院・教授 |
〃 | 寺澤 行忠 | 慶應義塾大学経済学部・教授 |
〃 | 十重田 裕一 | 早稲田大学文学学術院・教授 |
〃 | 中川 成美 | 立命館大学文学部・教授 |
〃 | 中嶋 隆 | 早稲田大学教育・総合科学学術院・教授 |
〃 | 橋本 行洋 | 花園大学文学部・教授 |
〃 | 林 正子 | 岐阜大学地域科学部・教授 |
〃 | 兵藤 裕己 | 学習院大学文学部・教授 |
〃 | 福井 純子 | 立命館大学・非常勤講師 |
〃 | 星野 靖二 | 國學院大學研究開発推進機構・助教 |
〃 | 増田 周子 | 関西大学文学部・准教授 |
〃 | 松田 清 | 京都大学大学院人間・環境学研究科・教授 |
〃 | 真鍋 昌賢 | 大阪大学大学院文学研究科・助教 |
〃 | 村田 雄二郎 | 東京大学大学院総合文化研究科・教授 |
〃 | 目野 由希 | 国士舘大学文学部・講師 |
〃 | 茂木 敏夫 | 東京女子大学現代文化学部・教授 |
〃 | 安田 敏朗 | 一橋大学大学院言語社会研究・准教授 |
〃 | 八耳 俊文 | 青山学院女子短期大学・教授 |
〃 | 山本 美紀 | 大阪キリスト教短期大学・非常勤講師 |
〃 | 吉岡 亮 | 苫小牧工業高等専門学校・准教授 |
〃 | 依岡 隆児 | 徳島大学総合科学部・教授 |
〃 | 李 梁 | 弘前大学人文学部・准教授 |
〃 | リース・モートン | 東京工業大学外国語研究教育センター・教授 |
〃 | 林 少陽 | 東京大学教養学部・特任准教授 |
〃 | ロバート・キャンベル | 東京大学大学院総合文化研究科・准教授 |
〃 | フレデリック クレインス | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | マルクス リュッターマン | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | 新井 菜穂子 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | 鈴木 敏昭 | 金沢大学国際日本文化研究センター・非常勤講師客員教授 |
〃 | 檜垣 樹理 | 早稲田大学国際教養学部国際日本文化研究センター・准教授客員准教授 |
〃 | リンドバーグ 和田 | 国際日本文化研究センター・客員外国人研究員 |
〃 | 安野 一之 | 国際日本文化研究センター・技術補佐員 |