■研究活動 共同研究 2001年度

モンゴロイドの自然誌

「国家」をはじめとする様々な集団が地球規模で交流、混交する機会が増加し、集団間の摩擦とそれに起因する種々の問題が頻発する状況です。この種の問題を考える際には、当事者たる集団がもつアイデンティティを理解することが肝要です。しかし、世界各地で顕在化する諸問題に対して個別的に現時点を基準とする表層的なアイデンティティをもって考えるだけでは、今日のごとく急速に変容し、複雑に錯綜する集団間の相互関係を捉え、将来への展望を拓くことは困難です。そこでわれわれは、遺伝子に支配される生物学的形質と行動に支配される文化的形質が絡み合って醸成されてきたアイデンティティの重層的な構造に目を向けざるを得ません。  各集団のアイデンティティは、地球上のそれぞれの環境下で長期間の生存形態の変化によって形成されてきたものであります。このようなアイデンティティの重層構造を認識し、特にその基層となる部分を明らかにすることが重要です。  以上の観点に立って、われわれ日本人が属する人類集団であるモンゴロイドを概観すると、その基層部分についての理解が大きく欠落していることがわかります。モンゴロイドの分岐集団は有史以前、東アジアを起点として人類初の極寒地への進出を果たし、ベリンジア(シベリアーアラスカ陸橋)を経てアメリカ大陸へ、また別の一団はオセアニアへと乗り出すことによって、人類史上最大規模の移住拡散しました。しかし、モンゴロイドの基層を理解する上で重要なこの現象については、いまだにそれがいつ、どのような戦略をもって行われたのか、科学的に解明されていません。  本共同研究は、モンゴロイドの移住拡散現象に対して、関連する専門領域による学際的な共同研究を行い、最初の科学的メスをいれることを直接の目的とします。これは、モンゴロイドの移住拡散に関する最新の事実を記載し、それに関する最新モデルの構築を目指すことになります。世界人口の過半数を占めるモンゴロイド集団の社会とその文化の基層部分の解明を完結させ、ひいては日本人と日本文化の成り立ちをモンゴロイドという視野のもとに考えることを目指すものであります。

代表者 赤澤  威 国際日本文化研究センター・研究部・教授
幹事 森  洋久 国際日本文化研究センター・文化資料研究企画室・助教授
班員 石田  肇 琉球大学・医学部・教授
印東 道子 国立民族学博物館・研究部・教授
片山 一道 京都大学・霊長類研究所・教授
木村 英明 札幌大学・文化学部・教授
斉藤 成也 国立遺伝学研究所・助教授
佐川 正敏 東北学院大学・文学部・助教授
佐々木史郎 国立民族学博物館・研究部・助教授
佐々木利和 東京国立博物館・資料部・資料第二研究室長
杉藤 重信 椙山女学園大学・人間関係学部・教授
関  雄二 国立民族学博物館・研究部・助教授
徳永 勝士 東京大学大学院・医学系研究科・教授
楊  海英 静岡大学・人文学部・助教授
米倉 伸之 東京大学・名誉教授
米田  穣 環境庁国立環境研究所・研究員