■トピックス  2019年

2019-12-02 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]アールブリュットとコミックス/マンガの交差点(2019年11月7日)

 11月7日、アーウィン・デジャス外来研究員(ブリュッセル自由大学FNRS研究員)を講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。

 デジャス研究員はブリュッセル自由大学で「アールブリュット/アウトサイダーアートと新しいコミックスのかたち―相反する二つの文化圏のあいだの影響関係と芸術的対話」というプロジェクトを組織し、これまでに多くの展覧会を企画しています。“Art Brut at the Fringe of Comics”(コミックスの周縁としてのアールブリュット)と題した今回の発表でも、アールブリュットとコミックス/マンガを融合させた新しい表現方法を取り上げ、分析と批評を繰り広げました。
 
 コミックスとアールブリュットには本来、共通点はあまり見られないといいます。コミックスが、コマ割りや吹き出しなど、極端にコード化され、制約の多い媒体である一方、アールブリュットは、フランスの画家・ジャン・デュビュッフェが「作り手の発想力のみが生み出す最も無垢な、生の芸術」と評したような自由な表現を特徴としています。しかし、コミックスの世界も過去30年の間に従来の枠組みから抜け出し、表現の幅を広げ続けてきたとか。新しい出版社による企画も追い風となり、様々なテキストや視覚芸術、特に美術界の周縁に置かれたアーティストの作品や、知的障害や精神疾患などを持つ人びとが生み出す作品との交流や対話に積極的に取り組んでいるそうです。近年では、コミックスと他のアート形式との活発な交流を促進するために、コリン・ベネケ(Colin Beineke)ら研究者が “Comicity”という新たな用語を提唱していることも紹介されました。

 当日は、第二次世界大戦前後に、アニメーションやコミックスの影響を受けて創作活動に励んだフランス・マシリール(ベルギー)、ボフダン・ブランコ(ポーランド)などヨーロッパのアーティストや日本の手塚治虫を皮切りに、『タンタンの冒険』で知られるエルジェ(ベルギー)ら世界各国のコミックス及びその他の芸術に影響を与えた「バンド・デシネ」の作家たちから、この9月に亡くなったアメリカのシンガーソングライターでアウトサイダー・アーティストでもあるダニエル・ジョンストン、“自然”をモチーフとしたコミックス作家ヴィンセント・フォーテンプス(ベルギー)等の現代作品まで、国も地域も創作形式も幅広い作品群が次々とスクリーンに映し出され、1時間半があっという間に過ぎ去りました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)