■トピックス  2019年

2019-10-08 日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]島々をつなぐ海と船――人、モノ、文化との出会いを求めて(2019年9月19日)

 9月19日、「日本関連在外資料調査研究・活用事業「プロジェクト間連携による研究成果活用」班からの提案」と題し、木曜セミナーが開催されました。

 日文研も所属する人間文化研究機構では、欧米に点在する日本関連資料のうち、学術的・社会的に重要であるにもかかわらず、総合的な調査が不十分な資料を対象に、それらの資料を保存する研究機関をはじめ国内外の大学などと連携して調査研究を行うことを目的とし、平成28年から以下のプロジェクトを実施しています。

  • ヨーロッパにおける19世紀日本関連在外資料調査研究・活用―日本文化発信にむけた国際連携のモデル構築(国立歴史民俗博物館)
  • バチカン図書館所蔵マリオ・マレガ収集文書調査研究・保存・活用(国文学研究資料館)
  • 北米における日本関連在外資料調査研究・活用(国立国語研究所)
  • ハーグ国立文書館所蔵平戸オランダ商館文書調査研究・活用(国際日本文化研究センター、平成 30 年度を以て終了)

 日文研は、これらのプロジェクトを主導し統括する拠点として、「プロジェクト間連携による研究成果活用」(研究成果活用班)事業を執り行っており、各プロジェクトの成果と異分野を融合した研究やセミナーを国内外で推進しています。

 当日は、本活用班の代表である稲賀繁美教授と、班員の根川幸男機関研究員が、これまでの3カ年に及ぶ活動の概要を報告するとともに、今後の国際共同研究の方向性と課題を提起しました。

 根川研究員は、本年2月に長崎県平戸市で開催した国際シンポジウム「国際海洋都市平戸と異文化へのあこがれ―在外資料が変える日本研究」と、在外資料伝達航路地図の試作について報告した後、現在進めている移民船航路体験研究の重要性について、ブラジルへ渡った移民船上で記された航海日誌等のドキュメントをもとに紹介しました。

 続いて、稲賀教授による発表「日文研次世代の国際共同研究・研究協力への模索」では、大正15年(1926)に大阪商船がアフリカ航路開設のために就航したかなだ丸と、乗船客の一人であった作家ローレンス・ヴァン・デル・ポスト(1906-1996、映画『戦場のメリークリスマス』の登場人物のモデル)をめぐるエピソードを一つの手がかりに、国際港湾都市と人・海域・海洋との関係史をテーマとする研究の展開と課題が述べられました。

 発表後、聴講していた西野亮太外国人研究員(南太平洋大学上級講師)から、「海は、島々を隔てるものではなく、島と島とをつなぐもの」という、海と島に関して近年提唱されている新概念が紹介されたのを受け、稲賀教授は「島の側から世界を見つめ直す必要がある。当時の関係者が次々に亡くなっているなか、移民に関する史資料の保存・活用は当然やるべきこと」と強調しました。


(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)