■トピックス  2019年

2019-10-04 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]舞踏と音から広がる21世紀の風景(2019年9月5日)

 9月5日、ケリー・フォアマン外国人研究員(ウェーン州立大学 音楽科講師/バレエ デトロイト ダンス歴史家)を講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。

 “Hearing Butoh: Sonic Analyses of a Growing Japanese Performing Art”(舞踏を聴く――成長する日本のパフォーミングアーツにおける音の分析)と題した発表では、舞踏のパフォーマンスで使用される音をテーマに、分析と批評が繰り広げられました。
 
 「舞踏」は1959年、日本と西洋双方の伝統的ダンス形式からの解放をめざした土方巽と大野一雄によって生み出されました。戦後のトラウマと、西洋化される身体からの脱却ともいわれます。舞踏はその後、映画やビデオ、書籍、ダンスフェスティバルやダンスカンパニーの公演などを通じて国際的な知名度を高めていきます。肌を白く塗ったダンサーのゆったりとした動き、ある種のグロテスクと「日本らしさ」、そして何よりも重要な点として、時に衝撃的でユーモラスな電子音(音楽もしくは多様な音)を使った演出が、舞踏を特徴づけるイメージとして定着するようになりました。世界の伝統音楽をはじめ、電子的環境音楽、サンプリング音、実験的な即興の生演奏などが、舞踏の音楽を形成していきます。

 ところが、それらの音がいずれも伴奏の役割を果たすなか、一般に日本の伝統音楽を含む“日本”を前面に押し出したような音楽の使用はみられないと、フォアマン研究員は指摘します。そして、舞踏と音楽の関係性をめぐる研究はまさに、舞踏の解釈や創作に国籍は関与するのか、また、それは音(楽)の選択とどのようにつながるのか、という疑問から始まったと言います。神楽、舞楽、能、日本舞踊といった日本の伝統的な踊りにとって伴奏が欠かせない要素だったのに対し、土方や大野はどのように音(楽)を位置づけたのか――。

 発表では、70年代の土方や大野のパフォーマンス映像に始まり、「舞踏」に影響を受け、もはや「舞踏」の定義を越えつつあるといわれる21世紀を代表するダンスカンパニーのステージと音の世界までを多数紹介してもらい、知られざる歴史の一端を垣間見る思いでした。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)