■トピックス  2019年

2019-08-19 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]「戦争と観光」から日本の近代史を見つめなおす(2019年7月11日)

 7月11日のイブニングセミナーは、日文研発行の英文学術誌Japan Review 特集号(No. 33)“War, Tourism, and Modern Japan”(戦争と観光と近代日本)の刊行を記念し、ゲストエディターであるアンドリュー・エリオット氏(同志社女子大学准教授)とダニエル・ミルン氏(京都大学講師)のお二人を招いて開催されました。
 
 「観光」は、特に日露戦争から太平洋戦争時における日本にとって、国家建設やプロパガンダ、軍人教育・教化の面で重要な一役を担ったといいます。今日では、第二次世界大戦が“記憶のかなた”へ遠のくにつれ、“原爆ドーム”を典型とするような戦争関連の観光地(施設)が、戦争の記憶を集約し、伝達するうえでは欠かせない中継拠点となっています。
 13本の論文を収録した今回の特集号については、近代日本の「戦争と観光」をめぐる様相を学際的・通時的に考察しているところが特筆すべき点と強調されました。1880年代から戦後を経て現在までの「戦争と観光」の関係性を、場所・人・行為・表象などのテーマに沿って深く掘り下げた内容となっています。
 
 司会を担当した、Japan Review編集長のジョン・ブリーン教授が、お二人の仕事ぶりに対し「すばらしいチームワークだった!」と絶賛したとおり、当日も息の合ったテンポで、日本の近代史と国際関係に新たな視点を提示する「戦争と観光」について、各論文の議論と重ね、多角的に解説してくださいました。エリオット氏は、主に戦争と観光に関する表象の問題を取り上げ、戦時中にプロパガンダとして利用された観光客向けのテキストや画像と、戦争関連の観光地へ誘う現在の広告などを比較紹介しました。続いて、観光の実践面に焦点を当てたミルン氏は、帝国の拡張や戦争支援、同盟の締結を正当化し可能にした、観光客の行動とその意味について再考を促しました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)