■トピックス  2019年

2019-07-31 日文研の話題

現在の日本における文学・文化研究―ハルオ・シラネ教授(米・コロンビア大学)をお招きして(2019年7月19日)

 7月19日、2019年度所長主宰研究談話会「人文学の未来を考える」の第1回企画として、ハルオ・シラネ教授をお招きし、小松和彦所長との対談が行われました。

 コロンビア大学東アジア言語・文化学部教授・学部長を務めるシラネ教授は、日本文学・文化を専門とし、なかでも中世・近世の物語・説話文学や詩歌、芸能、視覚文化を主要な研究テーマとしています。このたびの企画は、ご著書Japan and the Culture of the Four Seasons: Nature, Literature, and the Arts(Columbia University Press, 2012)が、大阪府主催の国際文化賞「第26回山片蟠桃賞」を受賞したのを機に来日されたことにより、実現しました。

 当日は、司会の荒木浩副所長より、シラネ教授のプロフィールと業績が紹介された後、主に小松所長が聞き役に回る形で、対話が繰り広げられました。はじめに、最近20年来の傾向として、アメリカで日本研究を志す学生の8割はアニメやマンガがきっかけとなっていること、日本文学を研究する際には、「古典文学」と「近代文学」、「文学」と「美術」「宗教」「歴史」など、複数の領域・分野にまたがる比較研究が大勢を占めていることなど、アメリカにおける日本文学・文化研究の現状が紹介されました。一方、アメリカからみた日本の人文学研究に対する感想については、終始穏やかな語り口の中から、日本ならではの特色と問題点が浮かび上がりました。印象に残った言葉のいくつかをご紹介します。
 

 「日本における日本文学研究は細分化されている」
古代・中古・中世・近世・近代に分かれ、その中でもジャンル別になっている。学会もそのように分かれている。それがもっと横断できるような体質になればよいと感じる。
 
 「日本では文学理論や文化理論などの「理論」をあまり教えない」
例えば、博士論文を一冊の本にするときの傾向として、いくつかの論文をまとめた“論文集”が圧倒的に多い。それが果たしてよい方向なのか――。論文を雑誌に掲載する場合は査読を通しているが、本にする際には査読がないという点に大きな矛盾を感じる。博論にあたる米語の ”thesis” は、「テーマ(テーゼ)」=「論点」という意味で、始めから終わりまでビジョンが一貫している必要がある。
 
 「読者は誰か、誰のために書くか」
日本のいまの出版事情は、研究書か選書(新書)が中心でその中間がなく、基本的に研究仲間のために論文を書いている。しかし、専門分野以外の人々に読んでもらうのが非常に重要だと思う。外に向けてどのように書くか、アピールするか、それをもっと考えていただきたい。アメリカの大学出版会は査読制で、分野外の読者も視野に入れている。出版されるまでに時間はかかるが、本の寿命は長く、まず絶版にならない。
 
 「海外で発表するのは、日本の学者にとってとてもよい訓練だと思う」
海外へ行っても、自国と同様、資料を中心に発表している例が多く見られる。英語で発表するのが理想だが、それ以上に必要なことは二つ。まず、イントロでは「見取り図」を示すこと。発表テーマの背景、コンテクストを説明しなければならない。あとは、論点(ポイント)を先に話すこと。ポイントA、ポイントB・・・という順番で、それぞれに資料を付けていく。短い時間ではとくに、イントロ(見取り図)→ポイント→結論とし、その場で証明する必要はない。
 

 対談の最後には、日文研との共通の話題として、最近の関心事という “Demonology”(妖怪学)について、中世ヨーロッパにおける関連用語の定義や伝承を比較の視点から紹介してくださいました。日文研に対しては、外国人研究者への支援や学際的研究体制、学術誌Japan Review等を評価したうえで、さらなる海外への発信・研究交流の発展に期待を寄せました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)