■トピックス  2019年

2019-07-05 日文研の話題

[日文研フォーラム・リポート]今日も生き続ける、変幻自在の山姥(2019年6月14日)

 6月14日、ハートピア京都にて、リーダー・津野田典子 外国人研究員(マイアミ大学教授)を講師に迎え、日文研フォーラムが開催されました。「鬼と鬼女と山姥と―山姥と鬼の関係―」と題した講演には120名が参加しました。通例とは異なる夜間開催だったこともあり、20~30代を含む初参加者が約3割を占めたこともお知らせしておきます。

 講演の冒頭ではまず、本務校であるオハイオ州マイアミ大学の瀟洒なキャンパスがスクリーンに映し出され、学生数1万9千人を誇る同大学の紹介が行われました。

 続いて、アメリカでは1980年代から本格的に研究が始まったという「山姥(やまうば)」について、中世の説話や御伽草子・謡曲などに表れる姿かたちや、その行動の違いを、テキストに加え、数多くの図像やイラスト、写真などを使って解説しました。一般には「深山に住む鬼女」と説明される山姥ですが、講演の中では、鬼/鬼女と比較しながら、その善と悪の二面性に焦点が当てられました。例えば「食わず女房」や「牛方と山姥」などの説話には凶悪な姿で登場するのに対し、「うば皮」や「米福粟福」などに見られる山姥は、慈悲深い存在として描かれます。しかし、その善と悪は結局、「鬼」をルーツとし、同じコインの表と裏だと指摘しました。そして時代の流れとともに、山姥の二面性を含む語りの形式が成立し、能の演目「黒塚」等にも広く取り入れられていった経緯も紹介されました。

 発表後には、まずコメンテーターの山田奨治教授が、「山姥」のような異質で境界の存在を排除するのではなく、歴史の中に位置づけ、社会に包摂していくことの今日的意義について補足しました。また会場で聴講していた小松和彦所長と、中世説話研究の第一人者である徳田和夫氏からもそれぞれ、山姥のイメージ生成を考えるうえでのヒントが述べられ、参加者の関心を集めました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
 
講演を行うリーダー・津野田典子 外国人研究員
リーダー・津野田典子 外国人研究員(左)とコメンテーターの山田奨治教授(右)
会場の様子