■トピックス  2019年

2019-06-07 日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]激論・反論/今なぜ藤間生大なのか(2019年5月23日)

 5月23日の木曜セミナーでは、昨年8月に出版された『希望の歴史学』(藤間生大著、磯前順一・山本昭宏編、ぺりかん社)をめぐって、井上章一教授と、編者の一人である磯前順一教授が、いずれも歯に衣着せぬ書評対談を繰り広げました。

 昨年暮れに105歳で亡くなった藤間生大氏(1913-2018)は、広島市出身の歴史学者です。古代・中世史研究者の石母田正らと戦後のマルクス主義歴史学をリードするとともに、独自の英雄時代論を展開し、『埋もれた金印』等の著作は一時期、多くの読者を獲得しました。しかし50年代半ば以降、マルクス主義歴史学の衰退とともに学界の表舞台から遠ざかり、その後は熊本の大学で教鞭を執っていました。『希望の歴史学』は、藤間氏と長く親交のあった磯前教授らが選んだ代表的な論考と生前のインタビューを収録し、解説と著作文献目録を附した著作論集です。いわく「希望の終末論」として編まれた本書は、藤間氏の亡くなる数か月前に刊行され、本セミナーの終了直前には、ご本人がまるで我が子を慈しむようにページを繰る様子を撮った映像も紹介されました。

 一方で今回の対談は、本書を読了した井上教授が抱いたという「違和感」を軸に、磯前教授が「批判されつつ、批判したい」と口火を切り、最初から熱を帯びた様相を見せました。「山村工作隊」への関与とその後、どうしてある種の全体主義に陥ったのか、「アジア的な歴史」とは何か、戦後史学の問題、労働者を集めた「サークル」活動など、50年代前半までの藤間氏の事績と発言をシビアに振り返りつつ、時に爆笑を巻き起こしながら、やがて話題は「民衆」「弱者」「他者」へと収斂し、フロア全体での意見交換に移りました。


(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)