■トピックス  2019年

2019-05-24 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]鬼か、はたまた善人か――「山姥」にみる両極イメージ(2019年5月9日)

 5月9日、リーダー・津野田典子外国人研究員(マイアミ大学教授)を講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。
 日本文学を専門とするリーダー・津野田研究員は、“Otherworldly Women Yamauba, Mountain Witches: On Duality of Yamauba”(異界の女たち「山姥」の二面性をめぐって)と題して発表しました。
 
 山を住処とし、人間の肉を食べる老女として語られることの多い「山姥」ですが、その名の登場は中世期に遡るそうです。元は山の神であり、鬼のような存在であったと考えられ、中世のさまざまな説話では、「山姥」と「鬼女」の言い換えが頻繁に見られるとか。そこで、「鬼」/「鬼女」と「山姥」の比較に着目したのが、今回の発表テーマとなりました。
 説話の世界では、例えば「食わず女房」や「牛方と山姥」などの話には凶悪な山姥が登場するのに対し、「うばかわ」や「米福粟福」などに見られる山姥は、慈悲深い存在として描かれます。しかし、その善と悪には、相互補完的な関係性があり、結局は「鬼」をルーツとする、同じコインの表と裏だと指摘します。
 発表では、時代とともに、山姥の善と悪の両面を有する語りの形式が成立し、その後のお伽草紙「花世の姫」(16世紀末~17世紀初)をはじめ、能の演目である「山姥」(15世紀初)や「黒塚(安達原)」(15世紀中頃)等に広く取り入れられていった経緯を紹介しました。また、山姥のイメージ形成に能の演目テキストが深く関わっていたという興味深い事実も明らかにしました。
 発表スライドの最終ページには、江戸期に歌麿や長澤蘆雪が描いた山姥画のそばに、2000年代に渋谷で人気を博した“ヤマンバギャル”の写真も並び、時代を越えた伝承と変容ぶりに笑いが広がる一幕もありました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)