■トピックス  2019年

2019-05-13 日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]未来へと研究の夢をつなぐ蔵書リレー(2019年4月18日)

 4月18日の木曜セミナーでは、光平有希・機関研究員が、「「宗田文庫」にみる東西医療文化史研究の諸相」と題して発表を行いました。

 「宗田文庫」とは、日本医学史・薬学史の研究ですぐれた業績を残した宗田一氏(1921-1996)の旧蔵書コレクションで、日文研に寄贈され、その一部については現在、日文研図書館で閲覧できるほか、データベース(「宗田文庫図版資料」)でも公開しています。医学・薬学史を中心とする書籍約13,300冊のほか、画像資料や古地図等も擁し、15世紀から現代までの500年にわたる日本医療文化史の一大宝庫といわれる貴重な資料群です。2001年~02年にかけては登録資料を書籍篇・図版篇に分けてリスト化した『宗田文庫目録』が日文研から刊行されています。

 さて実は、「宗田文庫」には上記以外にも、宗田氏研究の源泉ともいえる手書き原稿や、ファイル・ノート、写真、現物等、未整理の資料が数多く眠っていることは近年まであまり知られていませんでした。その長年の課題であった資料整理に着手したのが、音楽療法史を専門とし、医史学にも通じた光平研究員です。2年半ほど前に一人で取り組みを開始し、昨年からはリサーチ・アシスタントや院生・学生さんらの協力を得て、段ボール計180箱分のうち、128箱分の仮台帳ができあがったという段階で、このたびの中間報告となりました。

 新たに発見された資料のなかで、光平研究員が最も驚喜したのは、幕末~明治期に活躍した医師で殖産家の明石博高旧蔵品といわれる外科道具だったといいます。発表後のクレインス准教授の補足コメントによると、手術に使うメスなどは、そのカーブを描いた特異な形状から、江戸期にオランダからもたらされた品である可能性が高いとか。そのほか、宗田氏の関心の幅を物語る品として、医療関連のチラシ広告や、全国の寺社の厄除け護符が多数見られるのもおもしろい点でした。

 宗田氏は生前、研究の集大成として「東西医療文化史研究」をテーマとした著作の刊行を目指していたそうです。光平研究員は結びにあたって、未刊行原稿やメモ、集められた図版・画像資料等を骨子として、その構想の再構築や、さらなる研究深化の可能性を探りたいという大きな展望を語ってくれました。
 

(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)