■トピックス  2019年

2019-04-26 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]舞の本が語る中世武士の秘術とは(2019年4月4日)

 4月4日、ケラー・キンブロー外国人研究員(コロラド大学教授)を講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。

 中世の日本文学を専門とするキンブロー研究員は、“Combat Curses and Samurai Spells in the Kōwakamai Warrior Fiction of Late Medieval Japan”(中世後期の武家物語「幸若舞」にみる戦のたたりと武士の呪術)と題して発表しました。

 中世の物語史の中には、祈祷師を使った超自然的な力により、戦地をくぐり抜け敵を倒すという一つの伝統的パターンがあったといいます。中世初期の『平家物語』をはじめとする軍記物語においては、呪術等の特殊技能が修行僧の本分とされる傾向にあり、世俗の人々に代わって儀式を司る様子が一般に見られます。しかしそれが、15世紀末から16世紀初め頃、現在の形につながる「幸若舞」の語りが生まれると、専門の祈祷師の助けを借りずに、自らの修行道で身につけた力により、印を結んで呪術を行う武士たちが少数ながら登場するようになります。そのような物語が勃興した背景には、15世紀に広く普及した呪術の秘本『兵法秘術一巻書』(17世紀には『義経虎巻』の題名で刊行)の存在があったそうです。

 当日は、中世後期の武家物語である「幸若舞」や「御伽草子」の中から、秘術に関わる絵巻や絵入り版本を多数取り上げ、たたりや呪術の実体とその叙述法について詳細に解説してくださいました。国立国会図書館のほかに東京大学附属図書館の霞亭文庫といった所蔵先も紹介し、「幸若舞(注:能や歌舞伎の原型といわれる曲舞の一種)は廃れたが、文学としての舞の本は残った」という言葉が印象的でした。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)