■トピックス  2019年

2019-04-24 日文研の話題

「身体と儀礼」パネル発表、JAWS(Japan Anthropology Workshop 日本人類学ワークショップ)にて(2019年4月15日)

 2019年4月15日、デンマークのオーフス大学で開催されたJAWS(Japan Anthropology Workshop 日本人類学ワークショップ)にて、「身体と儀礼―学際的なアプローチ(Body and ritual: a multidisciplinary approach)というパネルを組み、歴史学、人類学、民俗学さまざまな分野から身体に関する発表をしましたので、以下、報告します。

 「身体と儀礼」のパネルは、日文研の共同研究会「身体イメージの想像と展開――医療・美術・民間信仰の狭間で」(安井・マルソー代表)に関連づけて組織されたものです。身体という広い領域を、今回は人類学の重要なテーマであり続けてきた通過儀礼という視点から切り込んでみました。

 まず安井眞奈美(日文研)が、現代は超音波診断によって鮮明な画像が示される胎児について、近世の「胎内十月之図」(胎児が成長する様子を月ごとに示した図)や近代の女性雑誌『主婦之友』に描かれた胎児の図などを取り上げ、胎児のイメージの変遷を具体的に示しました(「日本の近世から現代における胎児イメージの変遷――身体イメージの歴史の学際的理解に向けて」)。

 メリンダ・パップ(Melinda Papp)さん(ハンガリー エトヴェシュ・ロラーンド大学)は、「通過儀礼における装飾」というテーマから七五三と成人式に焦点をあて、とくに近年の七五三の特徴である、着飾った子どもの写真館での撮影を、ジェンダーによる役割やコミュニケーション、世代の違いなどから分析を行い、儀礼と身体を研究する際の重要な枠組みを示しました。

 ユディット・ゼンタイ(Judit Zentai)さん(エトヴェシュ・ロラーンド大学)は, 『解体発蒙』など江戸時代のさまざまな医学書に描かれた人体図を紹介し、近世の日本において西洋の解剖学の知識がいかに受け入れられていったのか、図像の分析からの解明を試みました(「江戸時代における人体の再発見」)。

 アンナ・アンドレーワ(Anna Andreevaさん(ドイツ ハイデルベルグ大学)は、中世の餓鬼草紙に描かれた出産の場面を例に、出産の社会的な背景について分析するための枠組みとして、身分、ジェンダー、宗教者、儀礼の専門家、男性の専門家による記録された間接的な知識、女性による経験に基づいた身体の知識といった重要な点を提示しました(「日本の中世における出産儀礼――妊者帯加持を中心に」)。

 ジョーフィア・ヒドベーギ(Zsofia Hidvegi)さん(エトヴェシュ・ロラーンド大学)は、「琉球文化の再生――ハジチ、忘れられた文化の再創造」というテーマで、沖縄における自身のフィールドワークに基づき発表しました。女性の通過儀礼でもあったハジチ(針突、ハドゥチ)と呼ばれる刺青の特徴と歴史、現代にもそのモチーフがさまざまな形で用いられている様子などを基に、琉球文化の再創造を具体的に示しました。

 フロアに集まったJAWSの会員、オーフス大学の学生、大学院生の皆さんから貴重なコメントや質問が寄せられ、たいへん有意義なパネルとなりました。


(文:安井眞奈美 日文研教授)
 
Manami Yasui, International Research Center for Japanese Studies
Transformation of fetal images from pre-modern to contemporary Japan; towards a multicultural understanding of the history of bodily images
 
Melinda Papp, Eotvos Lorand University Budapest
Adornment and embellishment in rites of passage
 
Judit Zentai, Eotvos Lorand University Budapest
Rediscovering the human body in the Edo-era
 
Anna Andreeva, Heidelberg University
Childbirth rituals in medieval Japan: "Empowering an imperial consort's pregnancy sash
 
Zsofia Hidvegi, Eotvos Lorand University Budapest
Reclamation of the Ryukyuan culture: reinventing hajichi, a forgotten tradition
 
安井教授による発表
パップ教授による発表
デンマーク オーフス大学
発表を終えて