■トピックス  2019年

2019-04-01 日文研の話題

国際シンポジウム「宣教師の日本語文学・漢語文学とド・ロ版画――キリスト教がもたらした多文化的融合」を開催しました(2019年3月15日)

 3月15日、人間文化研究機構の広領域連携型基幹研究プロジェクト「異分野融合による『総合書物学』の構築」の一環として、日文研ユニット主催による国際シンポジウム「宣教師の日本語文学・漢語文学とド・ロ版画――キリスト教がもたらした多文化的融合」を上智大学にて開催しました。国内外の研究者を合わせて58名が参加し、盛況のうちに終了することができました。
 
 日文研ユニットによる「キリシタン文学の継承:宣教師の日本語文学」は、2016年から3年間にわたって進めてきた研究プロジェクトです。1860年代から21世紀の間に来日した外国人宣教師によって日本語で刊行された作品群が近代日本に与えた影響を検討することを目的としています。「宣教師の日本語文学」と名付けられたこれらの書物は、中世の「キリシタン文学」を継承しながらも、演説、日記、対話、小説、随筆、戯曲、紀行、評論、研究などを幅広く網羅しています。本ユニットではさらに、文字資料だけではなく、画像資料の研究にも力を入れてきました。

 本シンポジウムでは、これまでの研究の集大成として、「宣教師の日本語文学・漢語文学」ならびに「ド・ロ版画(明治初期にド・ロ神父が主導して制作した木版画)」という二つのテーマについて、日本と中国の研究者が発表するとともに、識者によるコメントを交えた質疑応答と、活発な全体討論が行われました。
 
 第1部「宣教師の日本語文学・漢語文学」では、井上章一教授の総合司会により、まず、本ユニットの研究主宰者であった郭南燕・元准教授が、「宣教師の日本語文学とプティジャン版の視覚的表象」と題し、「宣教師の日本語文学」の沿革、および幕末から明治にかけてのプティジャン神父による教理書の出版活動とその影響について解説しました。続いて、肖清和氏(上海大学准教授)が、東アジアをはじめ欧米各地の図書館等で行われた中国の国家的プロジェクト「漢語キリスト教文献書目の整理と研究」について紹介した後、宋莉華氏(上海師範大学教授)が、宣教師の漢文小説を軸に、中国の古代小説との関係から近代文学に与えた影響に及ぶダイナミックな研究成果を発表しました。発表後は、高祖敏明氏(上智大学特任教授)、沼野充義氏(東京大学大学院教授)、李天綱氏(復旦大学教授)がそれぞれ個性豊かなコメントを披露してくださいました。
 
 第2部「ド・ロ木版画における多文化的融合」は、川村信三・上智大学教授の司会により、李丹丹氏(上海明珠美術館館長)による発表「フランス人イエズス会士ヴァスールの天主教図像事業」からスタートしました。続いて、鄭巨欣氏(中国美術学院教授)が、ド・ロ版画と、その手本とされるヴァスール師が上海で制作した版画について詳細な比較解説を行い、白石恵理助教が、長崎で生まれたド・ロ版画に見られる日本的な特色について発表しました。最後に、内島美奈子氏(大浦天主堂キリシタン博物館研究課長)が、九州におけるド・ロ版画の収蔵状況について報告した後、谷口幸代氏(お茶の水女子大学准教授)が「ド・ロ版画と日本語文学・日本美術」、石上阿希・特任助教が「浮世絵から考えるド・ロ版画」という観点から、それぞれコメントを加えました。