■トピックス  2019年

2019-03-27 日文研の話題

第67回学術講演会「パトリシア・フィスター教授退任記念講演会」を開催しました(2019年3月8日)

 3月8日、日文研講堂にて、第67回学術講演会が開催されました。パトリシア・フィスター教授が、本年3月末をもって退任するのに先立ち、記念講演として開かれたもので、国内外から駆けつけたゆかりの深い研究者を含む計389名が参加しました。

 当日はまず、小松和彦所長が挨拶に立ち、先ごろ亡くなった梅原猛顧問のこれまでの功績に触れて哀悼の意を表した後、講演者の紹介を行いました。

 第一部の講演では、前川志織特任助教が、「子どもをめぐるグラフィックデザイン―日本の洋菓子広告をてがかりに」と題して、1910~20年代の森永ミルクキャラメルの新聞広告を中心に、そこに描かれた子ども像と企業メッセージの移り変わりを丹念に分析。各時代のイメージ戦略によって、当初は栄養補助の役割を担っていたキャラメルが、徐々に甘いおやつとして子どもとの結びつきを強め、文化的・社会的意味を形成していった過程を、数多くのグラフィック広告や同時代の童画等をもとに解説しました。

 第二部では、パトリシア・フィスター教授が「京都の尼僧像にそそぐ光明―尼門跡寺院の新たな歴史をひらく」をテーマに講演しました。約20年前に着手してから今日までに及ぶ、京都の尼門跡寺院に関する研究成果のなかから、前半は太閤秀吉の姉を開山とする瑞龍寺とその菩提寺に残る肖像や史料を紹介し、ハイライトとなった後半では、宝鏡寺の菩提寺である眞如寺で発見した尼僧の肖像彫刻について詳細に語りました。

 眞如寺の法堂に安置されている4躰の尼僧像は他に類例がなく、非常に珍しいものだといいます。300~350年前に製作されたと推定され、発見時はいずれも経年劣化による損傷が激しかったとか。その状況に胸を痛めたフィスター教授は、中世日本研究所とともに共同プロジェクトを立ち上げて文化庁や京都府等に調査と保護を要請し、5年前から1躰ずつ、製作時の姿に戻すべく専門家による修復が行われてきました。講演では、修復のために解体した像内や台座下から見つかった墨書や銘文などから次々に浮かび上がった新事実についても紹介されました。そして、これまでの研究生活を振り返り、「ある事物について調査し、まとめるだけでは十分ではない。最終的に重要なのは、その研究成果を元の場所に返し、歴史を回復させること」と述べました。最後に、4躰目の修復事業が、実は自身の退任時期と同じく今月末に完了すると明かされた瞬間、会場はしばらくの間、大きな拍手に包まれました。


(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
 
講演を行う前川特任助教
講演を行うフィスター教授
講演の様子