■トピックス  2019年

2019-01-25 日文研の話題

[日文研フォーラム・リポート]『酒呑童子』の鬼が猫だったら、という話 (2019年1月11日)

 1月11日、ハートピア京都にて、ケラー・キンブロー外国人研究員(コロラド大学教授)を講師に迎え、日文研フォーラムが開催されました。「猫鬼の話―お伽草子『酒呑童子』と近世のパロディー絵巻」と題する講演は立ち見も出るほどの人気で、142名が参加しました。

 中世後期から近世初期にかけて、絵入りの物語として民衆に親しまれたお伽草子。なかでも、日文研の周辺地域である、かつての丹波国大江山を舞台とした鬼退治の話『酒呑童子』は人気を博し、数々の絵巻や版本が伝来するとともに、模本も多数知られています。

 発表の前半ではまず、『酒呑童子』の代表的な絵巻を場面ごとにたどりながら、登場人物とあらすじを紹介し、広い読者を得た物語の魅力に迫りました。途中、「“鬼”は私たちの社会にもいます!」という言葉には、場内から大爆笑が起こりました。そして、当日のハイライトとなる後半では、近年アメリカで発見され、日本でもあまり知られていないパロディー作品、伝・英一蝶筆『鼠乃大江山絵巻』(18世紀)を取り上げ、作品のテーマや制作の背景について詳細に分析しました。鬼が猫に、人間の勇者は鼠に代えて描かれた本絵巻は、人間の欲や情念といった暗い一面をもつ原作とは対照的に、機知と風刺にあふれた明るい作品となっています。

 コメンテーターの伊藤慎吾・客員准教授は、「鼠が登場する古典作品を数多く見てきたが、詞書がなく絵のみで構成された絵巻は珍しい」と述べ、パロディー作品誕生の背景にあった、『酒呑童子』の長きにわたる流行の歴史と、江戸社会の文芸の広がりを、あらためて強調しました。


(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)