■トピックス  2018年

2018-07-20 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]中国を舞台に描かれていたイソップ物語(2018年7月5日)

 7月5日、ローレンス・マルソー外国人研究員(オークランド大学 日本研究上級講師)を講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。

 “Illustrating Aesop: The Tales of Isopo Scrolls and Transformation of the Mediterranean World into the Chinese Visual Field”(イソップの挿絵――『伊曾保物語絵巻』にみる地中海世界から中国的視覚イメージへの変容)と題する発表では、ヨーロッパの版本等と比較しながら、『伊曾保物語絵巻』の図像の特徴について紹介いただきました。

 『イソップ寓話』の日本語版は、1593(文禄2)年にイエズス会士と日本人の信者らが天草でローマ字表記による翻訳本を出版したのが始まりといいます。1610~20年頃(慶長後期~元和初め)になると『伊曾保物語』として京都で活字本や仮名草子が出始め、1659(万治2)年には木版による挿絵入りの版本が登場します。やがて専門の工房で複数組の絵巻物が制作され、その中の長らく行方不明になっていた一組6巻が、3年ほど前に九州で発見されたそうです。

 今回は1670年頃の作とされる『伊曾保物語絵巻』の色鮮やかな画像を中心に、1521年にスペインのセビリアで出版された書籍の挿絵と、1659年に京都で刊行された版本の挿絵との詳細な比較分析が行われました。「アリとキリギリス」「ネズミとカエル」「ガチョウと黄金の卵」など、おなじみのイソップ物語の絵画表現が、国や時代によってどのように変化してきたか。人物、動物、衣装、装具、建物などの具体例により、細かな違いを概観することができました。

 結論のうちで興味深かったのは、1659年刊の京都版がイソップ物語の舞台をギリシャやバビロン、エジプトなど地中海に面した古代都市から東アジアへと移し替えた一方、その後の絵巻にはさらにステレオタイプな「中国」イメージに特化した表現が見られるという点です。江戸前期の絵師にとっての中国文化流行のきざしを垣間見る思いがしました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)